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Saturday, October 22, 2022

ノーベル物理学賞「量子もつれ」とは アインシュタインが「不気味」 奇妙な性質がもたらす未来:東京新聞 TOKYO Web - 東京新聞

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 原子や素粒子などミクロの世界でなにが起こるのかを説明する理論が「量子力学」です。それによると「量子もつれ」という常識外れの現象が起こります。あまりに奇妙なのでアインシュタイン博士は納得せず、理論がおかしいと主張しました。今年のノーベル物理学賞に決まった米国のジョン・クラウザー博士、アラン・アスペ仏理工科学校教授、ウィーン大のアントン・ツァイリンガー名誉教授は、量子力学の正しさを実験で示し、その奇妙な性質を情報技術に応用する道も開きました。 (永井理)

◆そんなばかな

 量子もつれは、粒子同士に強い結びつきができる現象です。いったん二つの粒子に量子もつれの関係ができると、どんなに遠く引き離されても、なぜか互いのことが分かるのです。片方の粒子の状態が変化すると、それに応じてもう一方の粒子も瞬時に変化するというのです。

 すると、どういうことが起こるのでしょう。粒子をボールと考え、粒子の状態をボールの色に例えて説明します。例えば粒子の右回転と左回転の二つの状態を赤と白とします。そして次のような状況を考えます。

 まず、ハワイの実験装置の中で、赤と白のボールを交ぜて量子もつれ状態にします。装置のふたは閉じたままなので、どちらが赤か白か分かりません。

 次に、ふたを開けないまま粒子をそれぞれ別の箱に入れ、一つを東京に、一つをロサンゼルスに運びます。まず東京の箱のふたを開けてボールを確認すると赤でした。次いでロサンゼルスの箱を開けると白いボールが入っていました。

 この状況を、量子力学では次のように解釈します。

 (1)二つのボールの色は、箱を開ける瞬間まで赤とも白とも決まっていない。赤にも白にもなりうる半々の状態、いわばピンクの状態だ(2)二つの箱を同時に開けると、その瞬間に東京のボールは赤に、ロサンゼルスは白に変化した(3)二つのボールは瞬時に連動するので、同じ色になることはなく、必ず一方が赤で、他方が白になる−。

 そんなばかな! 常識的な人ならそう思うでしょう。箱を開けるまでもなく中のボールの色は決まっているはずです。そして次のように考えるでしょう。

 (1)ボールの色は最初から決まっており、一つは赤で一つは白だった(2)たまたま赤いボールが東京行きの箱に入れられ、白がロサンゼルス行きに入れられた(3)だから東京で箱を開けると赤いボールが入っていて、ロサンゼルスは白だった−と。

 アインシュタイン博士もそう考え、量子力学流の解釈を「不気味」と批判しました。一九三〇年代のことです。その後、論争が続きますが、当時の技術ではどちらが正しいか検証できませんでした。そして、五五年にアインシュタイン博士が亡くなった後、事態は動きます。

◆本当だった

 六〇年代、英国のジョン・スチュワート・ベル博士が二つの粒子の関係の深さを表す数式を導き出しました。「ベル不等式」と呼ばれ、ボールの色が最初から決まっているなら、関係の深さは、ある一定の値を超えないことを示していました。

 七〇年代に入るとクラウザー博士が、量子もつれ状態にある二つの光の粒子の関係を測定するのに成功します。すると、粒子の関係の深さはベル不等式の値を超えていたのです。さらにアスペ教授が、より緻密な実験でそれを確認しました。この結果は、つまり、量子力学は正しくて、箱を開ける前のボールはピンクだということです。

 しかし、東京とロサンゼルスのボールが瞬時に通じ合って違う色になるのはなぜでしょう。国立情報学研究所の添田彬仁准教授(量子情報)は「物理法則がそういうものだったとしか言えない」と話します。実験を受け入れるしかないようです。

◆計算機にも

 さらにツァイリンガー博士は九七年、粒子が通じ合う量子もつれを利用し、ある粒子の状態を、離れた場所にある別の粒子に瞬間的に移す「量子テレポーテーション」の実験に成功しました。あるボールの色を、遠く離れた別のボールに「瞬間移動」させられるというのです。

 添田さんは量子テレポーテーションについて「量子コンピューターで計算途中の情報を受け渡しするのに欠かせない」と説明します。量子コンピューターはこれまでの計算機とは桁違いの速さで計算できると期待されています。速さの秘密は、情報が赤とも白とも決まらない状態のまま計算を進めることにあります。それには奇妙なもつれの性質が不可欠なのです。

 このように三人は量子力学の基礎を固め、情報技術に未来をもたらしたのです。

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