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Wednesday, November 9, 2022

「silent」はなにがすごいのか?注目浴びる理由とは|シネマトゥデイ - シネマトゥデイ

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(C) フジテレビ

 ドラマ「silent」(フジテレビ系・木曜よる10時~放送)の勢いが止まらない。特に絶大なのが、ネット上での反響だ。第4話の見逃し配信の再生数は、放送後1週間(10月27日~11月3日)で688万再生を突破。これは、フジテレビ全番組における歴代最高記録となる(配信数はビデオリサーチ調査による、TVer・FOD・GYAO!の合計値)。

 さらに放送後は、毎回のようにTwitter世界トレンド1位を獲得。この加熱する「silent」人気をひも解くと、理由はさまざま考えられるが、なによりも「silent」が思わず“語りたくなる”ドラマだということが大きい。なにがそれほど視聴者を前のめりにさせるのか。「silent」の“語りたくなる”ポイントを紹介したい。

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ラストまで観るとまた最初から観たくなる巧みな構成力

 まず特筆すべきは、新人作家・生方美久の脚本だ。昨年、第33回フジテレビヤングシナリオ大賞で大賞を受賞。本作で連ドラデビューを果たした新星だが、その構成力はもはや新人の域を超えている。

 たとえば第1話は、高校時代の青羽紬(川口春奈佐倉想(目黒蓮が朝の駅で待ち合わせするところからスタート。舞い落ちる雪を見てはしゃぐ紬に、想がいとしそうに「うるさい」と笑う、甘酸っぱい青春の光景が描かれる。

 それが、第1話のラストで一変。8年ぶりに想と再会した紬は、想が聴力を失っていることを知る。現実を受け止めきれず声で話しかける紬に、想が手話で伝えたのが「うるさい」という言葉。同じ「うるさい」なのに、トップシーンとラストシーンでまったく意味が異なる構成に、初見の視聴者は打ちのめされた。

 さらに第3話では、想と再会した戸川湊斗(鈴鹿央士が、去りゆく想の背中に向かって何度もその名を呼び続ける。耳が聞こえないとわかっているのに、どうして湊斗は想の名を呼ぶのか。その理由が明かされるのは、第3話ラスト。

 高校時代からずっと親友だった湊斗は、いつも想の背中を見つけては彼の名を呼んでいた。そして、自分の声にイタズラっぽく振り返る想の笑顔が好きだった。だから、あの頃のように想の名を呼んだ。いつか振り返ってくれる気がして、想の名を呼び続けていた。

 そんな湊斗の友情が明かされるや、ネット上は大反響。「もう1回最初から観る」という声が相次いだ。

 2度見ると、1度目とはまた違う感情が呼び覚まされる、計算し尽くされたシナリオに“おかわり視聴”が急増。この熱が記録連発の再生数の大きなモーターとなっている。

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考察班が大量発生! 深読みを誘う設定の数々

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(C) フジテレビ

 近年、連ドラ界を席巻する考察ブーム。これまでは主に「あなたの番です」(日本テレビ系)や「最愛」(TBS系)といったミステリー作品が中心だったが、純然たるラブストーリーにもかかわらず「silent」もまた“考察班”がこぞって自説を披露し、SNSを賑わせている。

 それも「silent」が深読みを誘う設定ゆえ。特に印象的だったのが、紬の誕生日だ。第2話で誕生日が4月28日であることが判明。すると、Twitterユーザーからその日の誕生花が「サクラソウ」(=佐倉想)であることが明かされ、視聴者は騒然となった。

 また、第5話で湊斗に別れを告げられた紬は、荷物を取りに行きたいと湊斗に電話をする。その前に紬が聴いていた音楽は、スピッツ「みなと」。これもSNSでの指摘が一気に拡散され、なぜ湊斗に電話をしようと思ったのか、紬の胸の内を探る貴重な手がかりとなった。

 ほかにも「silent」が「listen」のアナグラムであるなど鋭い考察も多く、「今週はどんな考察が飛び出すか」と期待する向きも。これらの考察は時に作品の見方を偏らせる懸念もあり、手放しで賞賛できるものではないが、世界トレンド1位を連発する原動力となっていることは間違いないだろう。

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久々に現れた大器の予感! 俳優・目黒蓮の憂いと輝き

 そして、まるで数年ぶりの恋のように視聴者をときめかせているのが、佐倉想を演じる目黒蓮だ。身長185cmという抜群のスタイルは、その場に立っているだけで物語が成立する水彩画的な美しさがある。さらに、涼やかな顔立ちでありながら、子どものようにあどけない瞳が庇護欲をかき立てる。

 そんな目黒の繊細さと、佐倉想の物憂げな佇まいがベストマッチ。彼が流す清らかな涙に身を引き裂かれ、寂しさを隠したように笑うたび、その垂れた目尻に胸を締めつけられる視聴者が続出。作品人気の大きな柱となっている。

 これだけ目黒に惹かれる理由は、彼の魅力はもちろんのこと、新鮮さもあるのではないだろうか。Snow Man のメンバーとして活躍する一方、映像作品への出演はまだ少なく、GP帯の連ドラ出演はこれが初。本作で初めて目黒を知った視聴者にとっては、既存のイメージがない分、余計に目黒蓮=佐倉想として感情移入がしやすく、つい夢中になってしまう。

 古い例だが、同じく手話を題材とした「愛していると言ってくれ」(TBS系)の豊川悦司がまさにそうだった。「NIGHT HEAD」「この世の果て」「この愛に生きて」(すべてフジテレビ系)とすでにヒット作への出演はあったものの、あの「愛していると言ってくれ」で演じた榊晃次で“トヨエツ”ブランドが確立。今なお豊川の名を聞くと、胸のはだけた白シャツで手話をする姿を思い浮かべる人も多いだろう。

 あるいは、「冬のソナタ」のペ・ヨンジュンや、近年で言えば「中学聖日記」(TBS系)の水上恒司(当時の芸名は岡田健史)、「初めて恋をした日に読む話」(TBS系)の横浜流星も近いパターンだと言える。ほかの役のイメージがついていない俳優ほど、こうしたラブストーリーの相手役はハマると強烈な爆発力がある。

 久々に現れた大器・目黒蓮の底なしの吸引力に、多くの視聴者が引きずり込まれている。

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まるで恋バナを聞くようにのめり込むリアルな三角関係

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(C) フジテレビ

 これらを踏まえた上で、つい「silent」を“語りたくなる”最大の要因を挙げるとすれば、なんと言っても紬、想、湊斗が織りなす三角関係だろう。8年ぶりに現れた元恋人・想と、優しい現恋人・湊斗。2人の間で揺れ動く紬の微妙な心理に、視聴者からも様々な声があがった。

 面白いのが、必ずしも紬に共感する声ばかりではないということだ。大好きだった人に久しぶりに会ったからと言って、紬は決してすぐに恋心を再燃させるわけではない。むしろ今好きなのは湊斗であると断言し、湊斗から別れを告げられたときも頑なに拒んでいる。

 そんな紬の一途な性格に応援の声が集まる一方、湊斗との新居はなかなか決められないのに、想と話をするためにすぐに手話教室に通いはじめたり、想と久しぶりに会うために新品のスカートをおろしたり、言動の端々から想への好意がにじみ出ていると指摘する声も多い。

 素直さが魅力の紬だが、素直というカードは裏返すと無神経になる。この紬をどう受け取るかで視聴者の意見が割れ、それがつい“語りたくなる”欲を刺激している。

 ちなみに、賛否が集まっているのは紬だけではない。想もまた紬や湊斗になにも言わずに姿を消した身勝手さに疑問を感じる人はいるし、人の気持ちを優先しているようで自分が傷つきたくないだけの湊斗の優しさに嫌悪感を抱く人も。

 ただ、はっきり言えることは、こうした「共感できない」という声がまったく作品の瑕疵(かし)になっていないこと。こうした反発を生むのは、人間の生っぽいところもいとわず拾い上げる生方美久のリアルな人物描写の賜物であり、むしろ大いに賞賛される点だろう。誰に共感できるかで見方が変わるし、ちっとも共感できないのにまるで他人の恋愛相談や恋バナを聞くようにのめり込んでしまうところに「silent」の面白さの強度がある。

 5話をもって紬と想と湊斗の三角関係は区切りがつけられた。ここから物語はどう広がっていくのか。ますます“語りたくなる”方向に展開してくれることを願ってやまない。

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「SNSに人が集まってくる」が、ヒット作品の常套句

 ほかにも、世田谷代田、LINE、『ハチミツとクローバー』など固有名詞を使うことから生まれる地続き感とエモさや、風間太樹監督がつくり出す幻想的でありながら温もりのある映像美など、“語りたくなる”要素は枚挙にいとまがないが、それらのすべてが高いレベルで融合しているのが、「silent」という作品なのだ。

 かつて恋愛ドラマが全盛期だった時代、ヒットドラマが放送されると、その時間帯は「OLが街からいなくなる」というフレーズが、人気の証明として用いられた。今はむしろドラマが放送されると、「SNSに人が集まってくる」がヒット作品の常套句。

 今週も木曜よる10時になると、多くの人がTwitterでつぶやき、友達とのLINEグループでしきりに感想を投下し合うことだろう。(横川良明)

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