NAA(成田国際空港)は1月18日、成田空港のさらなる機能強化に向けた「『新しい成田空港』構想検討会」の第4回を運輸総合研究所で開催した。
前回と同様、会場にはオンライン参加も含め、代表取締役社長の田村明比古氏をはじめとするNAAの経営陣、周辺各市町村の市長や町長、千葉県の副知事、構想検討会の委員長を務める運輸総合研究所の所長である山内弘隆氏や各大学関係者が集まった。
検討会が終了したあと、田村社長と山内委員長が取材陣に対して感想を述べ、NAAのスタッフが話し合われた内容について説明した。
「新しい成田空港」構想検討会のこれまで
第1回: C滑走路の新設
新しい成田空港の新滑走路とワンターミナル化で構想検討会。空港ビルは「閉鎖を伴う大改修・建て替えが必要」
第2回: 貨物取扱量の拡大
新しい成田空港に関する第2回構想検討会。貨物施設の1か所集約で効率化図り、年間取扱量300万トンの対応目指す
第3回: ワンターミナル化
成田空港に山積みの課題を解決する「ワンターミナル構想」。建設候補地の要件とは?
新しい成田空港を目指すべく、第1回目の検討会では発着回数50万回を可能とする3本目の滑走路と大規模な空港整備を議題とし、第2回目では貿易港としての貨物施設について、第3回目ではターミナルを集約するワンターミナル化について、委員会の識者や行政担当者に意見を求めた。
今回は新しい成田空港を利用するうえで重要になる「アクセス」について話し合いを行なった。公共交通機関やクルマを利用した空港へのアクセスは空港の利便性に大きく影響するため、現状を説明し、あるべき姿や今後の方向性について、出席者に意見や要望を聞いた。
鉄道・バス・タクシー・道路の利用別で見た成田空港へのアクセスの現状
成田空港へのアクセスの現状として、鉄道、バス、タクシー・ハイヤー、道路の比較評価などを説明した。鉄道を使ったアクセスとしては、JR東日本の成田エクスプレスと総武線快速、京成電鉄のスカイライナーとアクセス特急(スカイアクセス線ルート)、快速特急(京成本線ルート)の5つのルートがある。
スカイライナーが日暮里~空港第2ビルまで最速36分、成田エクスプレスが東京~空港第2ビルまで最速51分で都心とつないでいる。それぞれの路線における1時間あたりの運行本数は最大2~3本。後の議題にもなっているが、JR東日本、京成スカイアクセス線ともに成田空港周辺に単線区間(約7km)が存在し、本数増を困難にしている。
バスは目的地から空港まで乗り換えが少ないダイレクトな移動手段として、多くの人に利用されている。バスアクセスは近郊や都内に加え、関東一円で(コロナ前に)1日あたり1769便を運行していた実績があり、これは新宿バスタに匹敵する数字であると説明した。また、成田空港におけるLCCの増便に伴い、格安バス(LCB)も増加傾向にある。2012年7月は1日あたり30便だったのに対し、2020年2月には329便に増便されている。
タクシーはドアツードアのアクセスであることから、重い荷物を持つ利用客にとってはもっとも利便性の高い交通手段。空港内のタクシー乗降場所を使用する成田空港タクシー運営委員会の規模は11社180台程度(180台のうち23台がワゴン車)で、空港から同委員会所属のタクシー利用は年間延べ14万台程度であると説明した。タクシーは便利だが、成田空港~23区の片道料金が約2~3万円かかるなど、高額な運賃がネックになっている。
クルマを利用した道路アクセスについては、使用道路や交通量、空港内の駐車場について説明した。広域で見ると、空港までの道路アクセスは東関東自動車道と新空港自動車道を使うのがメインルートになっている。空港周辺道路は、都心や成田方面(第1・第2ゲート)へは新空港自動車道、国道295号線が接続しており、多古・柴山方面(第6ゲート)へは県道八日市場佐倉線・成田松尾線に接続している。空港内に目を移すと、空港内にはNAAが管理する総延長約24kmの道路があり、20か所程度の信号交差点が設けられている。
コロナ前の数字だが、自動車交通量は1日で約5万3000台であり、高速や成田方面に向かう北方面が77%と大半を占める。駐車場については、現在空港内には旅客用が約5000台、従業員用が約5700台用意されている。空港外の駐車場についてはすべて民間の事業者が運営しているものであり、コロナ前は50数社で約1万台以上の駐車容量があったが、現在は相当数が減少していると見られ、空港圏全体で見ると駐車場容量は2万台を下回っていると見ている。
各アクセスの割合は、2001年3月では鉄道41%、バス42.4%、乗用車15.2%、その他1.4%だったものが、2018年7月には鉄道46.3%、バス34.7%、乗用車12.8%、その他6.2%になっており、鉄道の利用が多くなっている。利用者を外国人に絞ると、2001年3月は鉄道31.7%、バス56.3%、乗用車11.5%、その他0.5%だったものが、2018年7月には鉄道47.1%、バス40.8%、乗用車9%、その他3.1%になっており、バス利用者よりも鉄道利用者が大幅に伸びていることが特徴であると説明した。
成田空港までのアクセスに求める要素を利用者にアンケートしたところ、日本人は主に“速さ”と“乗り換えの少なさ”を選択する傾向にあり、外国人は主に“速さ”と“分かりやすさ”を選択しているとのことだ(出展:2018年度 成田国際空港アクセス交通等実態調査)。そして、満足と答えた要因としては「速い・近い」「時間が正確」という声が多く、不満と答えた要因としては「料金が高い」「本数が少ない」という声が多かった。
成田空港アクセスのあるべき姿としては、「あらゆる利用者にスムーズなアクセス環境を提供し、将来の交通状況やモビリティにも対応」「地域と成田空港の持続的発展および相乗効果による共存・共栄・共創の実現」を掲げている。そして、利用者が使いやすいアクセスを実現するため、速達性・利便性・確実性・環境負荷低減の確保強化を図り、空港と地域を支える道路の整備や空港に関わる道路交通の影響を最小限に抑える工夫などにより、生活道路環境の確保・改善を目指すとしている。
鉄道アクセスは増便に向けて施設の改善も検討
現状を確認したあとはそれぞれのアクセスが抱える課題について説明した。今後の航空需要増(年間発着回数50万回)に伴い、アクセスの増強も喫緊の課題となる。
鉄道については増便で対応したいところであるが、課題も多い。成田空港内の鉄道線路はほぼ地下式による単線構造になっているので運行本数の増強が難しいことに加え、JR東日本、京成スカイアクセス線ともに成田空港周辺に単線区間が存在することで、行き違いに待ち時間が発生している状況だ。さらに2路線とも都心側のダイヤが過密状態であることから、そのことからもこれ以上の増便が難しい状況であるとしている。また、ホームの一部は狭隘なことで混雑が発生しており、災害時は特に顕著になる問題もある。
これらの課題を解決するための提言として、山内委員長を含めた「成田空港鉄道アクセス改善に向けた有識者検討会」では2022年7月に以下の6つを挙げている。
1. 今後の航空需要および鉄道需要の増大に対応するため、まずは現行の鉄道施設において、長編成化や運行本数の増加による輸送力向上を図ることが必要である。
2. 年間発着回数50万回時に向けては、現行の鉄道施設による輸送力向上には限界があり、空港周辺の単線区間の解消、都心側の輸送力向上および空港内の鉄道施設整備を時間軸も含めて整合的に推進することにより、鉄道アクセスの輸送力向上を図ることが必要である。
3. 空港周辺の単線区間については、その解消を図るための実現可能な線増案として、北側線増または南側線増による4案が考えられる。4案については、いずれの案にも技術的な実現可能性はあると考えられる。
一方、これらの線増案については、構造形式や施工方法などを含む計画の詳細が未確定であることや新設線建設にかかる工期や概算工事費は一定の想定の下での試算であり、技術面以外についても、需要予測の深度化や収支分析、費用便益分析などを実施するとともに、時間軸や事業主体のあり方、費用負担のあり方を含めて関係者間において検討していく必要がある。
4. 都心側の輸送力向上方策については、NAA、鉄道事業者などの関係者間において、既存ストックをできる限り活用する方策を検討することが必要である。
5. 空港内鉄道施設については、「新しい成田空港」構想による旅客ターミナルの再構築なども見据え、空港駅ホームの拡充や鉄道線路の複線化について、NAAを中心に、時間軸や負担のあり方も含めて検討を深度化することが必要である。その際、空港駅については、"日本の空の玄関にふさわしい空港駅"としての役割・機能を検討することが必要である。
6. 鉄道施設の整備は、完成共用までに長期間を要し、課題が切迫してからの検討では遅きに失することに留意が必要である。今後、NAAが中心となって鉄道アクセス改善の全体像を描くとともに、鉄道事業者や関係自治体、国を含むステークホルダーの参画を得て、改善方策の実現に向けたさらなる検討が進められることを期待する。
バスアクセスはソフト面の改善も含めて新しい方向性を検討
バスアクセスの課題としては、現状では第3ターミナル、第2ターミナル、第1ターミナルと各ターミナルを経由しているため、乗降時間や着座機会などのサービスレベルが異なること、バスの乗降場がターミナルの目の前に設置されていることからターミナルの構造により制約されて拡張性が乏しいこと(バスプールの容量も120台とほぼ限界に達している)などを挙げた。これらを解決するための目指す方向性として以下の4つを説明した。
1. バス事業者をはじめとする関係者との連携やバスポール(乗降場)利用に対するインセンティブ料金の設定などにより新規路線や新規参入、増便を図るとともに、施設の共用化による運用効率化や案内表示の改善、決済手段の多様化、MaaSの導入などを図る。
2. 新旅客ターミナルの整備にあわせ、バス乗降場およびバスプールの拡充を図るとともに、アクセス機能を集約しさらなる旅客利便性を向上させる方策についても幅広く検討する。
3. 空港内道路の整備にあわせ、BRTの実現可能性など、空港と周辺地域とのバス運行の利便性向上策について検討する。
4. 主に空港従業員を対象に、パークアンドバスライドによる混雑緩和や環境、利便性に配慮したバスアクセスについて検討する。
パークアンドバスライドは、自宅から出たあとは空港近辺の駐車場にクルマを駐車し、途中からバスでターミナルなど空港内の職場に向かう方法をイメージしている。渋滞が緩和されるので、時間やコスト的な優位性があるとしている。海外の事例として、ニュージーランドのオークランド空港で導入されている空港公式のパーク&ライドサービスが紹介された。
タクシー・ハイヤーは乗合を増やして料金低減を検討
タクシー・ハイヤーの課題としては、NAAが実施した調査では6割近くの利用客が“高い”という印象を持っており、中大型車が少なく、グループや家族にも対応できていない可能性を説明した。これらの課題を解決するために目指す方向性としては以下の4点を上げた。
1. 利用者にとっての運賃を低減するため、タクシー・ハイヤー事業者などと連携して、乗合タクシーやタクシー・ハイヤー配車サービスの導入を図る。
2. グループや家族にも対応できる中大型タクシー・ハイヤー車両の導入促進を図る。
3. MaaS事業者との連携により、ほかのアクセスとタクシー・ハイヤーを組み合わせた低廉なサービスの実現を検討し、成田空港アクセスに係る選択肢の増加と利便性の向上を図る。
4. 新旅客ターミナルの整備にあわせ、タクシー・ハイヤー乗降場および待機場の拡充を図るとともに、アクセス機能を集約しさらなる旅客利便性を向上させる方策についても幅広く検討する。
道路は空港内道路の大幅改修も行なって地域との接続性向上を図りたい考え
道路アクセスの課題については、広域道路との接続、空港周辺道路、空港内道路、乗降場・駐車場について説明した。
広域的な道路については、東関道の潮来IC~鉾田IC(2025~2026年度開通予定)、圏央道の大栄JCT~松尾横芝IC(2024年度開通予定)、国道464号北千葉道路の市川市~鎌ヶ谷市間、成田市押畑~大山などの完成により、北関東や県南とのアクセス向上やリダンダンシー(冗長性)の確保が期待されていることから、今後の交通量増大や災害時対応の向上を図るため、空港内道路との効率的な接続の検討が必要としている。そのためにも、空港内道路は周回型で分かりやすく、速達性の高い道路に再編することが望ましいと説明した。
空港周辺道路については、今後増大する交通量に対応するとともに、周辺道路の混雑緩和などにより地域ネットワークに貢献する空港周辺道路網を目指し、関係者と連携・協力していくとのことで、以下の6つを上げている。
1. 広域的な高速道路網と空港・地域との接続性向上。
2. 空港内道路の再編・今後の周辺道路整備による地域ネットワークへの貢献。
3. さらなる機能強化に伴う付替道路の着実な整備および効果の発揮。
4. 関係者と連携・協力により、既存道路を含めた将来交通量への対応や空港と地域の発展を支える道路網の実現。
5. 空港と地域の発展を支える道路網や空港を利用する乗用車・トラックなど空港に関わる道路交通による影響を最小限に抑える工夫による生活道路環境の改善・向上。
6. 地域と空港間交通に対する駐車場確保。
空港内道路については、旅客・貨物・従業員動線が混在し、分岐が多く分かりにくい道路であることや、平面交差点が多いため速達性が損なわれている点を改善したいと説明。繰り返しになるが、空港内道路は周回型で分かりやすい道路に再編し、東関道や圏央道などと速達性の高い道路で接続して、アクセシビリティの向上とリダンダンシーの確保を図るとしている。
乗降場や駐車場については、拡張性が乏しく、平面と立体駐車場が混在することでサービスレベルが異なっている点が課題であると説明。そのため、ピーク時に確実に対応できる、ワンターミナルのメリットを最大限に活かしたターミナルに近接・直結した利便性の高い乗降場・駐車場を検討するとしている。また、長期駐車場や従業員駐車場についても、必要な容量を十分確保し、利便性やES向上、道路混雑の緩和、環境負荷の低減などを踏まえて検討したいと説明した。
ハードとソフトの両面からアクセス改善を目指す
検討会を終えて山内委員長は取材陣に対し、これからの成田空港のアクセスに関しては改善すべき点が多くあるが、「規模に応じたハードを作らなきゃいけないという面もあるけれども、それよりもやはりそのサービスをよくする、あるいは利用者の視点からアクセスを向上させていく、こういう重要な視点をいただけたかと思います」と振り返った。続けて、「アクセスは成田空港だけの問題ではなくて、地域、県、あるいは国といったように地域すべての問題ですので、皆さんでより議論を深めていくとこういうことが必要なのではないかと思います」と話した。
田村社長は、長年の懸案事項である成田空港へのアクセスについて多くの意見をいただいたと話し、道路や鉄道などハード面でそうとう改善しなければならない点もあるが、合わせて多様な顧客層に対して的確なサービスが提供できるようなソフト面からの検討というのも非常に重要であるとの認識を示した。
「アクセス改善については周辺の自治体からも非常に高い関心と期待をいただいておりますので、これから私どもと幅広い関係者が一緒になって検討し、具体策を作って実施していかなければいけません。それに向けてしっかりと次に向かって検討を進めていきたいと考えております」と話した。
検討会では識者から「モノの移動や従業員の移動も重要」「インバウンド側からの視点が足りない」といった意見も出され、それらの視点を取り入れたマーケティングの再考も考えていると関係者は話していた。
4つのテーマを決めて開催された構想検討会はひとまず終了となるが、今までの意見や要望を取り入れた内容でさらに深堀りした議論をする第5回目を3月14日に行なうとし、それを経て中間とりまとめに近いものを作成し、次のステップの関係者と協議した計画策定に向かいたい方針だ。
からの記事と詳細 ( 成田空港の“行きづらさ”は鉄道・バス・道路なにが原因? 新ターミナル整備と合わせてアクセス改善へ - トラベル Watch )
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