吉川ひなのさんが自ら執筆、実母との複雑な関係や境遇、ふたをしてきた過去の傷を初めて告白した書き下ろしエッセイ『Dearママ』(幻冬舎/現在予約受付中)が6月8日に発売される。本書はこれまで語ってこなかった過去を、信念を持って綴り、発売前から注目を集めている。
 

6月8日に発売される吉川ひなのさん新作エッセイ『Dearママ』/幻冬舎刊(現在予約受付中)

本書の発売に先駆け、FRaUwebでは、ひなのさん自身の生い立ちを初めて綴った前作のエッセイ『わたしが幸せになるまで』の冒頭部分を期間限定で再掲載する。 

人生の豊かさについて

わたしは今、人生史上一番幸せだと思う。

ふとしたときに、あぁ、幸せ♡ と思ったりする。

それは、ただ道端を歩いてるときだったり、車を運転しているときだったり、スーパーで買い物をしているときだったり、あるときからいつもと変わらない何気ない日々の中で幸せを感じるようになり、その幸福感はずっと大きくなり続けてる。

10代、20代のころは何気ない日常の中で幸せを嚙みしめるなんて、そんなことは一度もなかった。10代前半で芸能界デビューを果たし、わたしは瞬く間に売れていった。

映画のデビュー作で日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞し、数々の雑誌の表紙を飾り、ある年の年間CM契約数は第1位で、周りの大人たちはみんなわたしに敬語で話しかけた。

スタジオに到着するとメイクルームはわたしの居心地がいいように抜かりなく準備され、今をときめくスタイリストが用意した素敵な服がずらりと並び、海外帰りの売れっ子ヘアメイクがわたしの注文通りにわたしをかわいくした。

ひとこと寒いと言えば周りの大人がどんなに暑くてもわたしの快適な温度になるようにクーラーを止め、用意されたお弁当をあまり食べなければすぐさま別の食事が用意され、誤ってものを落とせば争奪戦のようにその場にいる全員がそれを拾うために立ち上がった。

自分で拾おうとしようものなら全員から「いいよいいよ、大丈夫だよ、すぐ拾うから姫は気にせず座ってて!」と言われるので、わたしはあるときからものを落としても自分で拾おうとするのをやめた。大人たちはいつもわたしのご機嫌を取りたいのだったら、それをさせてあげたほうが親切だと思ったからだ。