日本人のVision Pro体験者は10人ほど。
7月13日(木)、東京・恵比寿のPORTAL POINT -Ebisu-で、「Decode Apple Vision Pro」というイベントが開催されました。
XR事業を手がける株式会社MESONが主催のこのイベント、内容は以下の通り。
WWDC23で発表された「Apple Vision Pro」をテーマにしたイベントです。長らくその登場が期待され、大きなインパクトを業界にもたらすと噂されていたApple Vision Proについて、専門家を交えて様々な角度から読み解いていきます。
Experience(体験)、Technology(技術)、Market(市場)という3つの視点で、専門家の方々が語ってくれました。
その「Experience(体験)」のセッションで、ギズモード・ジャパンの副編集長、 綱藤公一郎が登壇しましたので、その模様をお伝えします。
4人のVision Pro体験者が勢揃い!
このセッションには、綱藤のほかに、ITライターの 西田宗千佳さん 、ジャーナリストの 松村太郎さん 、そしてファシリテーターとして株式会社MESONのCEOである 小林佑樹さん が登壇。
4人の共通点は、もちろんWWDC23でVision Proを体験してきたこと! 日本人では10人いるかいないかという、非常に貴重な体験をしてきた4人が、Vision Proについて語っていきます。それぞれの視点がけっこう違っていて興味深い話になりましたよ。
まずはVision Proの疑似体験からスタート
最初は、小林さんが作成したスライドを鑑賞。デモの記憶を頼りに、初期セットアップから空間コンピューティングの体験までをパワーポイントを使って再現してくれました。
特にセットアップの様子はWWDC23の基調講演でも触れられていなかったので、とても貴重な情報。実機がないため、せめて体験したことを共有したいという小林さんの熱い想いが詰まっています。
このデモンストレーションは、Apple ParkのサッカーグラウンドにWWDC23の3日前に建てられた専用の建物内で行なわれたのだとか(WWDC閉会3日後に取り壊されたらしい)。
体験者は一人ずつ8畳ほどの個室に通され、ソファーに座りApple(アップル)のスタッフの指示に従って Vision Proを体験しました。
体験者たちはそこで何を感じたのか、じっくり聞いていきます。
体験者がいちばん印象に残っていることは?
ここからはテーマに沿ってのトークタイム。お題は3つあり、4人は事前に回答済み。
最初のテーマは「Vision Proを実機で体験して、特に印象に残っている体験はなんですか」。その回答がこちらになります。
西田さん「3D映画」
西田さん:あえてこれまで記事にしなかったことを挙げています。3D映画はこれまでもありましたが、映画館とも従来のHMD(ヘッドマウントディスプレイ=頭に被るディスプレイ)で見ているものとも違う体験でした。
何百万円もするホームシアターで見る体験とも違っていましたね。
自分がいる空間に、映画館で見ている3D映画のクオリティのものがドーンと出てくる。これは誰も体験したことがないものだと思いました。
50万円のプロジェクターを買うのなら、Vision Proのほうがおもしろいんじゃないかというくらいのクオリティで、コンテンツの世界を変える可能性があると思います。
松村さん「何も感じなかったこと」、小林さん「被った瞬間」
松村さん:肉眼で現実の空間を見ているところに、Vision Proをかけてからも何も変わらないというのが驚きのポイントでした。
デモンストレーション中に、Vision Proをかけた状態で部屋の中を歩くんですけど、ローテーブルや絨毯の継ぎ目があっても、肉眼のときと同じように行動できたんですよ。そこにすごく驚きました。
Vision Proをかけていることを感じないくらい、現実空間と映像が融合していて、立体感や距離感などが再現されている。なので「何も感じない」と書かせていただきました。
小林さん:「被った瞬間」と書いたのはほぼ松村さんと同じ感想です。現実世界と比べて歪みや違和感を感じないことは当たり前であるべきことなんですが、やはり他のデバイスも見てきた身からすると、違和感の無さはとても印象に残りましたね。
綱藤「空間再現写真」
綱藤:体験中に、声を出して驚いた機能が空間再現写真でした。僕が見たのは、2人の子どもが遊んでいる写真でした。3Dで奥行きのある静止画なんですけど、実家や親戚の家でアルバムを見て、「こんなことあったねぇ」って話している、あのエモい感じそのままだったんですよ。家族写真のアップデート版がここにあると思いました。
これは3D空間をそのまま保存して再現できるわけではなくて、四角くフレーミングされた3D立体視の写真が空間に浮かび上がるイメージです。
人によっては、そこに3D空間を再現したいという人もいるかもしれませんが、僕はカメラ好きなのもあって、切り取られた写真であることにしっくりきました。新しい写真文化を提案された感があります。
松村さん:このデモでは誕生日ケーキのろうそくの火を消す動画も見たんですけど、煙がこちらに来る感覚で。匂いがしないのが不思議なくらいでした。
Vision Proを一言で表現すると
お次のテーマは「Vision Proを一言で表現すると●●である」。それぞれが思う●●を埋めていきます。
綱藤「未来のファミリーカメラ」
綱藤:僕は「未来のファミリーカメラ」と答えました。写真好きでお子さんのいる方って、カメラや撮影機材にお金をかけると思うんですけど、そういう人たちにとって50万円は安くはないですが、手が届く存在だと思ったんです。
Vision Proを被ってまで撮影するかな?と思ったんですけど、昔のビデオカメラって結構大きかったし。ファミリーカメラとして普及する可能性はあるなと思いました。
松村さん「空間と身体性の拡張」
松村さん:僕は「空間と身体性の拡張」と答えました。Vision Proは視覚をきちんと拡張してくれます。このシーンを見てください。ウィンドウが出ている下に、影が出ているんですよ。バーチャルのウィンドウなのに。ここがガラスだったら反射したりするんです。
ARkitを使えばこういうことはできるんですが、きちんと視覚的にバーチャルとリアルがミックスされた状態で見せられて、やられた!という感覚があったんですよね。
西田さん:本当にそうなんです。このスライドを見てください。床やバーチャルの水面にスクリーンの反射が再現されています。これは、今までのHMDにはありませんでした。
これがあるから映画のクオリティが上がるわけではないんですが、映画館やホームシアターならこうなるわけで、これが自然な状態なんです。
小林さん「Pre-BMI」
小林さん:僕も松村さんと似ていて。Pre-BMIのBMIって、ブレインマシンインターフェイスのことなんですけど、BMIは脳に直接コンピュータを接続するものです。
Vision Proは脳に直接挿したりしないんですが、目は脳に一番近い感覚器。そこに常にVision Proが情報を与え続け、目を監視しながらユーザーがどう考えているのかということを捉えて、僕らが情報にアクセスするという意味では、BMIの一歩手前にあるのかなと思いました。
また、自分が何かしたい、情報を得たいと思ってから、できるまでのスピードが迅速だなと感じました。たとえば、視線でオブジェクトを選択するというアクションがあるんですが、これが思っている以上に楽なんですよね。
iPhoneが登場したときに、指でのタッチに操作を統一するという点で技術革命が起きたことと同じだと思っていて。自分の身体とか意識に近づいたデバイスだなと思いました。
西田さん「被りっぱなしで使うHMD」
西田さん:これまでのHMDって、被った状態で映画を見たり、コミュニケーションをしたりしても、終わったら外すわけです。なぜなら、着けているときは快適ではないし、ひとつひとつの体験が切れているから。
HMDを被って大きな画面で仕事をしていても、10分後のビデオ会議ではHMDを外すわけですよ。喉が渇いて冷蔵庫に飲みものを取りに行こうとするときも、HMDを被ったままでは不便だから外す。
いっぽうVision Proは、被ったままで何も考えずにスタスタと歩いて冷蔵庫にビールを取りに行くことができる。
8bitのPCの時代は必要なときだけ電源を入れて使っていたのが、インターネットが普及したことで、電源をスリーブ状態にするようになって、スマホではもはや電源を切るという行為自体がなくなりました。
それと同じように、今新しいコンピュータを使うのであれば、人間が常に被りっぱなしでいろいろなことができる必要がある。それをVision Proは実現しようとしています。
3年以内に何が起こる?
最後のテーマは「Vision Proが発売されてから3年以内に何が起こる?」です。みなさんの回答は?
松村さん「まだ何も起こらない」
松村さん:3年でキャズムを超えて、生活に取り入れはじめる人が増える可能性はあると思います。ただ、あの価格でその手前のところまで3年で押し上げられるのか分かりません。
iPhoneが15年前に発売されたときも、iOS 5が出たくらいで「なんかすごいじゃん」という感じになってきたので。
3年くらいはアーリーアダプターたち、僕らのような人だけが楽しめる存在になるのかなと思ってるんですよ。
綱藤「#くうかんしゃしん ムーブメント」
綱藤:僕の答えも3年以内というのは思い切ってると思うんですけど、空間写真をシェアしあうみたいな文化は、いつか起きると思います。流行ってほしいという願望も込めて。
過去を振り返ってみても、SNSからデバイスが普及する現象はありました。AppleはSNSにそれほど強いわけではありませんが、写真においてはいろいろな提案をしていて。
たとえばライブフォト、共有アルバム、共有ライブラリといった、身近な人たちとの小さなソーシャルに力を入れている。その文脈を空間再現写真から感じたので、いつか「#くうかんしゃしん」みたいなブームが来るのではないかと。
それこそ、Vision ProじゃなくてもiPhoneで撮れたらいいと思うんです。ビューワーとしてVision Proを使う、みたいな。そういう次の写真をAppleには作ってほしいなと思いました。
松村さん:それが盛り上がったら、それこそVision Airとか、もっと安いVision SEもぜひ作ってほしいですね(笑)。
小林さん「Vision Proだけで仕事をする人が増えてくる」
小林さん:Vision Proでは、ディスプレイもキーボードも出てくるじゃないですか。今のPCと一緒で、ずっと仕事ができる環境が整っている。そうすると、Vision Proを仕事のメインツールとして使う人が出てくるんじゃないかなと思っています。
西田さん「ミーティングに劇的な変化」
西田さん:世の中、ミーティングは結構多い。でも、オンラインミーティングでは人の顔なんて見ないですよね。なぜかというと、顔が見えてるんだけど、小さい画面で映っていても、我々のコミュニケーションには情報が足りなすぎだったのではないかなと。
直接会ったり、食事に行ったりすると濃密な関係性を感じます。Vision Proで体験したミーティングはそれと同じように、動画よりもしっかりとしたコミュニケーションができると思いました。
WWDC23の1カ月前に、Google(グーグル)のプロジェクトスタートラインという3Dコミュニケーションのインターネットビデオの施策を見てきました。これも3Dで人間が表示される。めちゃくちゃそこにインパクトがあります。
そういうものがあれば、HMDを被ったままコミュニケーションをするのもアリなのかなと。
Vision Proがすごいというか、同じようなものをほかのHMDが実装する可能性はあると思うので、Vision Proが影響を与えてコミュニケーションが変わるかもしれないという話ですね。
松村さん:WWDC23で、AppleがAIに触れていない!という人がいるんですけど、めちゃくちゃ使われてますよね。HMDを着けているから自分の顔を3Dで送れない、さあどうするといったときに、そこでAIを使って顔を作ればいいじゃんっていうのが、Appleの力技。
西田さん:ビデオミーティングは、それはそれで価値があるんです。でも、やっぱり足りないものがあるんだというときに新しいものがでてきた。それをみんなが体験すると、ホントに必要なものってなんだったんだろうという話になってきている。そういう段階なんだと思います。
僕らはいつVision Proに出会えるのだろう
約50分のセッションはあっという間にお開きに。もっとVision Proについてのお話が聞きたかったところですが、こればかりはしょうがありません。
日本人でVision Proを体験した人はごくわずか。その方たちから貴重なお話が聞けただけでも満足です。
しかし、僕ら未体験者が思っている以上に、Vision Proの体験は衝撃的だったようですね。うーん、早く体験してみたい!
あと1年後? 2年後? Vision Proがやってきたとき、僕らはどんな反応をするのでしょう。そのときのことを思いながら、Vision Proを待ちましょう。
Photo: 三浦一紀
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