SEGAで「ソニック」、スクエニで「FINAL FANTASY XIV」の開発を手掛けた、時空テクノロジーズ 代表取締役CEOの橋本善久氏は、5Gがもたらす変化として「クラウドの“暴力”がより使いやすくなる」ことを挙げる。
負荷の高い処理をクラウドに任せ、そのアウトプットを手元のデバイスで利用する手法はすでに様々な分野に広がっているが、その間の通信が「大容量・低遅延になることで、物量の暴力、クラウドのパワーをなおさら借りられる」ようになる。
ハードの制限から逃れるユーザーの手元に高性能ゲーム機やハイスペックPCは不要だ。クラウドでレンダリングした結果を表示するモニターと、コントローラやマウス・キーボードがあればいい。
クラウドゲーミングがまさにこれに当たる。ワークステーションやPlayStation 4でなければ実現できなかったような表現力の高い映像をクラウドで作り、ユーザーの前のモニターにストリーミングで届けられる。
通信容量と遅延が常に問題となるクラウドゲーミングだが、5Gの能力に加え、MEC(マルチアクセスエッジコンピューティング)やネットワークスライシング技術を組み合わせることで、その課題の大部分は解消できるはずだ。極度の低遅延性が求められる対戦格闘ゲーム等を除けば、クラウドゲーミングの普及は確実に進む。
この利点は、映像コンテンツを使う幅広いシーンで活かせるはずだ。
ただ、橋本氏は、進化がそこで留まってはもったいないとも指摘する。「単にPS4のゲームをクラウドに持っていくだけでは、ポータブルになっただけ。ゲーム内容も体験も変わらない」からだ。映像ストリーミングも、YouTubeが高精細化したに過ぎない。仮想キャラがそこにいる
橋本氏が「5Gで実現すべきもの」とするのは、インタラクティブ性と共有体験だ。画面の向こう側のバーチャルな世界の住人と、プレイヤー/視聴者がコミュニケーションする「インタラクティブストリーミングの実現にこそ価値がある」と話す。
図表は、時空テクノロジーズが開発しているアバターシステムのイメージだ。
図表 インタラクティブ・クラウドストリーミング・アバターのイメージ
前述の通り、クラウドの暴力を使えば普通のPC/スマホやスマートテレビでも、実写と見紛うリアルなキャラクターをストリーミングで見せられる。仮想と現実の世界をつなぐ通信が低遅延になれば、視聴者は、バーチャル世界の住人が“そこにいる”ものとしてコミュニケーションできる。キャラクターはAIでもいいし、図表のように人間がフェイシャル/モーションキャプチャで操るアバターでもいいが、カメラ・マイクを介して視聴者の声や表情・ジェスチャーを認識し、反応し、対話することで人格があるように見える。「例えばアイドルの握手会のように、アニメやゲームのキャラが自分を認識してくれてコミュニケーションできる。触れることはできないが、それでもファンにとっては信じがたい体験だ」(橋本氏)。
現在でも、イベント会場に高性能なシステムを用意すれば可能だが、金と手間がかかる。5G時代には、テレビやYouTubeと同じ環境でそんな体験が味わえるのだ。
橋本氏は「YouTubeのようなサービスも再定義されるはず」と話す。配信側と視聴者の関係がインタラクティブになることに加えて、配信側の共演も容易になるためだ。大容量通信と低遅延通信が、離れた場所にいるYouTuber同士、あるいは人間とバーチャルの共演を可能にすることで「コンテンツの作り方が増える」。
月刊テレコミュニケーション2020年3月号から一部再編集のうえ転載
(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)
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