今年もあと10日を切り、年末商戦もいよいよ最終コーナーに突入してきた。ここ数年は、11月下旬のブラックフライデーから盛り上がりを見せ、12月上旬のボーナス支給日、12月後半のクリスマス需要と年末商戦期が長期化。さらに、年明けのお年玉需要まで含めると、なんだかんだと1カ月半ほどの長期戦となっている様相が伺える。
そうした中、今年のPC市場は、果たしてどうなっているのだろうか。テレワーク需要の一巡といった動きがみられる一方で、部品不足や部品価格の高騰は、供給力や最小製品の価格にも影響。そして、10月に登場したWindows 11の市場へのインパクトも気になるところだ。データをもとに、PC市場の今を探ってみた。
国内PC市場は今年一番の落ち込みに
一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)が、12月21日に発表したの国内PC出荷統計によると、2021年11月の出荷台数は前年同月比56.9%減の50万9,000台と、今年一番の落ち込みになった。
これで8カ月連続での前年割れだが、その落ち込み幅がますます大きくなっている。
とくに落ち込みが激しいのがノートPC。前年同月比61.5%減の40万9,000台と、4割にまで縮小。モバイルノートに至っては、78.9%減と約2割の水準にまで落ち込んだ。
理由は明白だ。前年同期に導入が本格化していたGIGAスクール構想の反動である。小中学校の生徒1人1台にデバイス環境を整備する同構想では、モバイルノートに該当する仕様が機種選定の前提となっており、その分がごっそり抜けたことが理由である。
また、GIGAスクール構想の影響がない2019年11月と比較しても、今年は33.5%減と3分の2の水準に留まっている。一昨年(2019年)は2020年1月のWindows 7のサポート終了前という需要があったことで市場は盛り上がりを見せていたが、今年はWindows 11が10月から正式にリリースされるというプラス効果がある。だが、結果としては、サポート終了前の買い替え需要を、新たなOSの登場では埋めきれなかったとも言える。
ちなみに、モバイルノートの平均単価は、GIGAスクール構想の1台4万5,000円という予算にあわせて、2020年11月は4万4,222円となっていたが、その影響がなくなった2021年11月は10万7,299円にまで一気に上昇している。
JEITAの統計の中で、もう1つ捉えておきたいのが、デスクトップPCが前年同月比1.3%増とプラスになっていることだ。内訳をみると、オールインワンPCは34.5%減と大きく減少しているのに対して、デスクトップPC単体は16.9%増と2桁成長している。さらに単体の出荷金額は87%増と大幅な伸びになっている。これは平均単価が大きく上昇していることを示している。オフィスや在宅勤務において、性能が高いデスクトップ単体を購入するといった動きがみられているようだ。
依然としてWindows 10搭載モデルが6割占める
では、GIGAスクール構想の影響を受けない量販店での動きはどうだろうか。
データを見ると、こちらも落ち込みが続いている。
主要量販店などのPOSデータを集計しているBCNの調査によると、2021年4月以降、販売台数では2桁減が続いており、2021年12月1日~20日までの最新データでも販売台数は前年同期比16%減となっている。
年末商戦に突入しても、需要が回復していない状況がわかる。ここでもWindows 11の効果は限定的といわざるを得ない。
実際、OS別の売れ行きを見るとそれがわかる。
12月1日~20日の集計では、全体の60.2%を占めているのがWindows 10搭載モデル。現在、販売されているWindows 10搭載PCのほとんどは、スペックの観点からも、Windows 11に無償でアップグレードできるため、最新モデルよりも低価格で購入できるWindows 10搭載モデルの購入が促進されているようだ。
それに対して、Windows 11搭載モデルの構成比は16.3%に留まっている。マックのシェアが17.9%であることと比較すると、Windows 11は、現時点ではMac OSを超えていないという状況が浮き彫りになる。
念のため、2015年のWindows 10の発売時点との比較も行なってみた。
今回の集計が2021年10月のWindows 11の発売から約2カ月というタイミングであったため、比較対象をWindows 10が発売となった2015年7月から約2カ月後の2015年9月1日~20日の期間で集計してみたが、この時は、従来OSのWindows 8.1搭載モデルは84.6%と圧倒的であり、Windows 10はわずか0.9%に留まっていた。
それに比べると、Windows 11への移行は早いと言えるのかもしれない。
Chromebookは存在感を発揮できず
OS別という観点では、Chromebookの動きも気になるところだろう。
というのも、先に触れたGIGAスクール構想では、文部科学省の発表では、40.1%をChrome OSが占めており、Windowsの30.4%を大きく上回った。それにあわせて、学校で使用しているPCと同じものを購入したいといった需要が顕在化することも見込まれるからだ。量販店店頭では、どれぐらいの影響が出ているのだろうか。
だが、データをみると、それほど大きなインパクトは出ていない。
BCNのデータでは、前年同期となる2020年12月1日~20日までの集計では、ノートPC全体に占めるChromebookの構成比が2.7%だったものが、最新の2021年12月1日~20日までの集計では6.1%となった。増加傾向にはあるものの、まだ1割以下の水準であり、GIGAスクール構想でみせたような影響力は生まれていない。
ちなみに、Chromebookの売れ筋上位5機種は、以下の通りだ。
メーカー | 機種 | シェア |
---|---|---|
ASUS | Chromebook C223NA | 20.4% |
日本エイサー | Chromebook Spin 311 | 16.0% |
ASUS | Chromebook CX1 (CX1100CNA-GJ0040) | 12.5% |
ASUS | Chromebook CX1 (CX1101CMA-GJ0004) | 5.9% |
日本HP | Chromebook x360 12b-ca0014 G1 | 4.5% |
Chromebookの分野では、ASUSが躍進していることがわかる。
Windowsを含めたノートPC全体でも、2021年11月のASUSのシェアは16.1%。富士通、NECに次いで、3位のポジションとなっている。トップの富士通とも、わずか3.4ポイトンの差だ。Chromebookを追い風にシェアを拡大しているのだ。
年末商戦期にあわせて、積極的なTV CMを行なうなど、訴求力を高めているChromebookだが、量販店において、今後はどんな勢いで存在感を増すことができるのか、長期的視点で注目しておきたい。
部品価格高騰は製品価格に転嫁されているのか?
2021年の年末商戦では、部品不足や部品高騰の影響が見逃せない。
それは2つの観点から、市場への影響を及ぼしている。
1つは、売れ筋商品への影響だ。PCや、プリンタをはじめとした主要周辺機器では、商品の魅力という観点よりも、在庫があるものから売れているという状況が生まれているのも事実だ。それが市場シェアにも影響を及ぼしている。
例えば、2021年11月のプリンタのメーカー別シェアでは、キヤノンやエプソンが前年同月からシェアを落とす一方で、新製品投入にいち早く乗り出したブラザーがシェアを拡大している。キヤノンは45.0%、エプソンは39.1%と2強状態は続いているが、ブラザーは前年同月から3.7ポイント上昇し、14.9%のシェアを獲得している。
もう1つは、実売価格の上昇だ。
実際、PCそのものの平均単価は上昇傾向にあるが、BCNでは、こうした動きを捉えて、「デスクトップPCではエントリーモデルにおけるCPU性能の上昇のほか、HDDからSSDへの置き換えが見られていること、ノートPCでも高性能CPUの搭載や、SSDの大容量化がみられ、これが平均単価の上昇につながっている。タブレットでもSSDの大容量化が単価上昇に影響している」と分析している。
この状況をもう少し詳しく見てみよう。
富士通クライアントコンピューティングの売れ筋モデルである15.6型ノートPC「LEIFEBOOK AHシリーズ」を例にとって実売価格の変化を見てみた。同モデルは、2020年7月以降、最新のWindows 11搭載モデルまで3種類の製品が発売されており、CPUの世代の違いはあるものの、いずれもCore i7、8GBメモリ、512GB SDD、15.6型液晶ディスプレと搭載というのが基本スペックだ。メインストリームとなる製品ラインだけに、機能強化がされても、価格設定にはそれほど大きな変化をつけないモデルだともいえる。
BCNのデータによると、2020年7月に発売になった「LIFEBOOK AH53/E2」の同月の平均実売価格は15万4,000円だったが1年後の2021年7月には11万2,000円となり、27%の価格下落となっている。
それが2020年10月発売の「LIFEBOOK AH53/E3」では、16万7,800円からスタート。1年後の2021年10月は13万6300円となっている。価格下落率は19%に留まっている。
そして、2021年10月に発売となったWindows 11搭載の「LIFEBOOK AH53/F3」では、発売月には18万7,000円からスタート。発売3カ月後の2021年12月の価格は17万2,000円となっており、下落率は8%に留まる。
このように、最新モデルの価格は、従来モデルに比べて、発売月の価格設定が高く、さらに、従来モデルよりも価格下落率が低い。最新モデルと従来モデルの3カ月後の実売価格を比べても最も下落率が低いのは最新モデルの方だ。
これは、富士通クライアントコンピューティングのPCに関わらず、各社とも同じ状況にある。
NECパーソナルコンピュータの売れ筋モデルである「LAVIE N15」も、従来機種と比較すると、実売価格は1万5,000円ほど高くなっている。
PCメーカーの関係者に取材をすると、「SSDや液晶などの調達価格は下落傾向にあるものの、全体的に部品価格が高騰している状況にある。SSDなどの下落分では吸収できず、価格への転嫁が避けられない」という声があがる。中でも、調達価格では、1個あたり1円以下のような小さい部品が入手できず、ブローカーを通じて100倍近い価格で取引されるケースもあるようで、こうした小さな部品の積み重ねが、本体価格の高騰や、メーカーの利益率の減少につながっているという。
「1円を切るような小さな部品でも、それがないだけで、PCが完成しない。商談の納期があれば、高くても部品を仕入れて製品を完成させなくてはならない場合もある」という声もあがる。
部品不足で新製品戦略に影響も
プリンタでも同様の状況が起きている。
プリンタメーカー各社は、年賀状需要がある年末商戦に向けて新製品を投入するのが定番だが、エプソンは、今年の年末商戦に向けて主力のインクカートリッジモデルの新製品投入を見送り、年明けにした。
エプソンでは、「部品調達の遅れに伴う商品の供給不足が発生し、製造現場への新商品切り替えに伴う高負荷を避け、商品供給を最優先とするため」と、インクカートリッジモデルの年末投入を見送った理由を説明している。国内では出荷構成比で10%台の大容量インクタンクモデルの新製品を投入したものの、8割以上を占める領域の新製品を見送った。部品不足の影響が、過去に例がない戦略への変更を余儀なくしている。
そして、発売から1年を経過した製品であるのにも関わらず、実売価格はそれほど変化がない。
エプソンのインクカートリッジモデルは、昨年と同じ製品を継続的に販売しているのだが、その売れ筋モデルである「EP-883A」は、2020年10月の発売時点での平均単価は3万3,000円。価格競争が激しくなる2020年12月でも2万9,700円という価格を維持していた。そして、それから1年を経過した2021年11月の価格は2万8,200円であり、わずか1,500円しか下落していないのだ。
2019年10月に発売された「EP-882A」では、発売時点での平均価格は2万7900円であり、年末商戦が本格化した2019年12月には2万3,100円まで下落。わずか2カ月で4,800円も下落していたのに比べると、今年は、発売から1年経過した製品でありながらも、価格がほとんど下落していない異常ぶりが浮き彫りになる。
セイコーエプソンの小川恭範社長は、「供給制約が継続しており、それに伴う、部材費の高騰、輸送コストの高止まりが影響している。価格対応や費用抑制を継続している」と語り、「市場価格が下がりにくい状況になっている」と指摘する。
年末商戦が本格化するなかで、実売価格が下がっていくというのがプリンタの販売動向であったが、今年はそうした動きが見られない。実売価格が高止まりしているということは、実質的に商品への価格転嫁が行なわれていると見てもいいだろう。
こうした動きは、エプソンだけでなく、プリンタメーカー各社に共通したものである。
ビデオカードの平均価格は2.5倍に
BCNの調査では、興味深いデータもある。
PCパーツという観点で見た場合に、ビデオカード(グラフィックボード)の平均単価は、2020年10月以降、右肩あがりで上昇。2021年6月には、2020年9月比で約2.5倍にまで価格が上昇。その後も高水準で推移している。
BCNでは、「価格ピーク時には、売れ筋のグラフィックボードが品薄となり、高価格帯のグラフィックボードだけが市場に残った結果、販売枚数は減少したものの、平均単価は大きく上昇した」と分析する。だが、その後、販売枚数が増加しても、平均単価の減少は限定的であり、価格高騰の影響を受けていることがわかる。
部品価格の高騰や品薄は、もうしばらく続きそうである。それが、低迷しているPC市場の需要に打撃を与えているともいえる。
厳しい年末商戦のあとにも、厳しい市場環境は続きそうだ。
からの記事と詳細 ( 2021年の年末商戦ではなにが起こっているのか?Windows 11は10%台、Chromeは1桁台。価格転嫁の動きも - PC Watch )
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