皆さんの疑問に答えるNHK北海道の取材チーム「シラベルカ」。 今回は移植医療の現場で役立てられているという「さい帯血」に関する投稿です。聞き慣れない人も多いと思いますが、医療関係者や移植を受けた人に話をうかがって、どのように活用されているのか調べました。
今回寄せられたのは以下のような投稿です。
札幌市在住・40代女性
「さい帯血ってなに?と子どもに聞かれましたが、ちゃんと答えることができませんでした。どこで採取するのか、妊婦さんに負担はないのか、調べてほしいです!」
さい帯血とは?
まずは、質問の「妊婦さん」という言葉をたよりに札幌市内の産婦人科、札幌西レディースクリニックを訪れました。
さい帯血とはいったいどのようなものなのでしょうか。この病院の寺澤勝彦理事長が教えてくれました。
札幌西レディースクリニック 寺澤勝彦理事長
「さい帯というのは、いわゆるへその緒のことです。つまり、さい帯血とはへその緒の中にたまっている血液ということになります。出産の際、赤ちゃんのおへそからへその緒を切り取ることになりますが、その時に切った部分と胎盤の間に溜まっているさい帯血を採取することができます」
命を救う血液
へその緒の血液であるさい帯血。この特徴から、出産時にしか採取できない貴重な血液でもあります。では一体、何のために採取をしているのでしょうか。
寺澤勝彦理事長
「さい帯血は白血病や悪性リンパ腫のような、血液疾患を治療するための移植医療に使われています。さい帯血に多く含まれている造血幹細胞という細胞を移植することが目的なです。骨髄移植と同じ狙いの治療方法と言ったらわかりやすいかもしれませんね」
骨髄移植や骨髄バンクはご存じの方も多いかと思いますが、実はさい帯血を移植することも同じ役割を担っていたのです。
体への負担は?
質問にもあったように、気になるのは採取を行った場合の赤ちゃんや母親の体への負担。しかし、この点に関しては全く心配ないということです。
寺澤勝彦理事長
「基本的に体への負担は全くないですね。さい帯血を採取する時、赤ちゃんはすでにへその緒から切り離されていますから、問題ありません。母親に関しても、胎盤はまだ子宮の中に残っていますが、赤ちゃんが生まれた時点で血流は遮断されています。なので、さい帯血を採取したことで血が足りなくなったり、状態が急に変化したりといったことは起きません」
実際に治療を受けた人の声
実際にさい帯血移植を受けた人にも話を聞くことができました。
訓子府町に住む安岡祐一さんは27歳の時に悪性リンパ腫と診断され、一時は余命が1、2か月と宣告されました。骨髄移植による治療を試みますが、ドナーが見つかりません。そんな中で医師から提案されたのがさい帯血移植でした。
安岡祐一さん
「治療が何もできない状態から移植ができることになったときは本当にすごくうれしかったです。さい帯血を提供してくれた方には本当に感謝しかありません。治療中はたくさんの方から輸血もしていただきましたし、お医者さんもすごく親身に接してくださいました。いろいろな人の善意の力のおかげで今があるんだと思っています」
移植後、無事にさい帯血が生着し、悪性リンパ腫は寛解しました。リハビリを続けた安岡さんは今では酪農の仕事をしながら、休日には車いすバスケットボールチームの練習に汗を流しています。
安岡祐一さん
「さい帯血をいただいたおかげで、私は生きられています。さい帯血をもっとたくさんの人に知ってもらって、提供してくれる方が増えてくれたらうれしいなと思います」
広がるさい帯血移植
さい帯血には骨髄移植にはないメリットがあります。
1つ目は採取する際の負担がないことです。骨髄移植の場合は提供を行うドナーは数日間入院をする必要がある一方、さい帯血の採取は母子に対する負担がありません。
2つ目は新型コロナウイルスの影響を受けにくいことです。骨髄移植ではドナーやその家族が新型コロナウイルスに感染してしまった場合に、移植自体が中止になってしまう可能性があります。しかし、さい帯血は病院で採取した後、冷凍保存してあるので、必要な時に使うことができます。
3つ目は比較的適合する範囲が広いことです。骨髄移植ではHLAと呼ばれる白血球の型が適合する必要がありますが、さい帯血移植の場合はすべて適合しなくても移植をすることが可能です。
こうした事情を背景に、さい帯血移植の件数は少しずつ増えています。2016年には骨髄移植の件数を上回り、その後も1300件以上の移植数を保っています。
さい帯血が足りない
病気の治療に非常に有効なさい帯血ですが、課題も抱えています。道内で採取されたさい帯血を加工して保存している「北海道さい帯血バンク」でお話を伺いました。
このバンクではさい帯血の中にある細胞の数が基準を満たしているかなど検査し、基準を通過したものを液体窒素の中で保管しています。
さい帯血が抱えている課題とはいったいどのようなものなのでしょうか?
北海道さい帯血バンク 内藤友紀製剤係長
「さい帯血の数が足りていないのが現状です。骨髄移植などに比べて知名度が低く、まずは多くの人にさい帯血の提供という選択肢を知っていただかなくてはならないと考えています」
安定的に移植医療を行うには全国で最低でも1万本、保管する必要があるということです。
しかし、さい帯血の需要が増える速度に供給が追いつかず、ここ数年は1万本を下回る状況が続いているといいます。
道内では12か所の医療機関で採取可能
さい帯血の採取は、さい帯血バンクの活動に協力している機関でのみ採取ができます。
道内で採取出来るのはこちらの12か所の医療機関です。
すべての医療機関で採取できないのは、さい帯血の品質を保つためには医師の協力が不可欠なためです。北海道さい帯血バンクによると、特に大型の医療機関では出産にリスクを抱えた妊婦を多く扱っているため、さい帯血の採取をする余裕がないということです。
また、こうした医療機関が札幌近郊に集中しているのは、道内ではさい帯血バンクが札幌にしかないためです。さい帯血は採取した後、素早く必要な処理をしなければならないため、道内の他の地域からさい帯血を受け入れることが難しくなっています。
現状、限られた場所でしか協力はできませんが、内藤さんはできる範囲で協力してもらいたいと話します。
内藤友紀製剤係長
「さい帯血移植はどんな人でも受ける可能性があるものですが、さい帯血の提供はお母さんと赤ちゃんにしかできないことです。1人分のさい帯血で1人の患者さんの命を救うことができます。ぜひ多くの人にさい帯血の提供を選択していただきたいです」
今回取材を行った私自身は男性であるため、直接的な協力はできません。しかし、もしも子どもを授かった時にはパートナーと話し合い、さい帯血の提供について積極的な選択を取りたいと考えています。さい帯血の提供という選択肢をより多くの人に知ってもらえるようこれからも取材していきます。
札幌放送局 記者 勝 健太
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