ホンダ「スーパーカブ110」インプレ(中村浩史)
車名の「カブ」に装飾がついたら、それはアソビに強いカブなのだ
誰がどう見たってカブだ。
地球上にたくさんオートバイがあっても、古くても新しくても、ホンダのカブほど車種当てクイズに正解されちゃうバイクはないだろう。もちろん回答者は、バイクなんか知らない一般のひと達。きっと、メイトもバーディもカブだって言われちゃうけど。
現在、ひと口にカブといっても50から110、125まであるし、車種だってハンターカブからC125、クロスカブに110プロ、素の50と50プロとバリエーションがあるけれど、どれもこれもみんなカブだ。
50/110プロはもちろん、やっぱりカブといえばビジネスユースが思い浮かぶ。けれどハンターとクロスは、ホンダの狙い通りアソビの道具として熱狂的なファンを生み出している。車名の「カブ」になにか修飾がつけばアソビの道具となるのだ、きっと。125も実は「C」が車名にくっついていて、アソビの道具になるのだ。
そして「素」の50がいちばんプロに近いビジネス近似モデル。では110の「素」バージョンはどうなのか、と乗り回してみた。
スーパーカブ110は、いまハンターカブに迫る勢いの人気のクロスカブのベーシックバージョン。クロスカブのような軽快でスタイリッシュなカタチでもないし、知らない人が見たら「ウチにもうずいぶん長い間乗らずにあるよ」なんて言われちゃう。
現行モデルは、ついにキャストホイールになってフロントにディスクブレーキを装着、しかもABSまで装着されている。けれど、ABSはもう法規上、ついていなきゃならないため、この形がこの先の将来ずっと、スーパーカブの「原型」となるのだろう。
現行スーパーカブ110を初代カブの後継だと思う理由
スーパーカブ110は、1958年、つまり昭和33年に発売されたスーパーカブC100(100という車名とはいえ50cc)の正統後継モデルだと思う。
昭和33年といえば、映画『ALWAYS 三丁目の夕日』の舞台となった年で、東京タワーが完成した年、あの風景。川上哲治が引退し、長嶋茂雄がデビュー、王貞治が巨人軍入団を決めた年で、道路はまだ舗装率も低く、国道一号線の全線舗装が完成するのは、この4年後の昭和37年のこと。
こんな頃、スーパーカブは物資運搬に、人々の交通手段に、大車輪の活躍をした「万能の交通手段」だった。
当時の大学卒業男性の初任給は1万5000円ほどで、スーパーカブは5万5000円。今の大卒初任給が25万円ほどだとすると、ざっと換算して100万円弱くらいで、一家に一台というには、ちょっと手の届かない(当時は月賦制度も未発達だし)金額。現在で言うと、中古の軽自動車のような存在だったのだろうか。
あれから60年余。現在もスーパーカブ50は発売されているけれど、最高速度が30km/h、通行できないルートがあったり、2段階右折するのかしないのか、制約だらけの交通事情を考えると、スーパーカブ50は万能な交通手段としては現実的ではない。
これがスーパーカブ110こそ現代の万能な交通手段であり、初代スーパーカブの正統後継モデル、と思うゆえんだ。低床バックボーンフレームで、クラッチ操作の要らない自動遠心クラッチ、誰にでも運転できて、便利で頑丈なオートバイ、今も昔も、それがスーパーカブなのだから。
その現行モデルは、新たにロングストロークの空冷単気筒エンジンを搭載し、前述したように前後キャストホイールとして、フロントにABSつきディスクブレーキを採用した。数えきれないほど仕様変更を受けてきたスーパーカブの歴史上、もっとも大変更を受けたモデルかもしれない。
新しいエンジン、キャストホイール&ディスクブレーキのスーパーカブで街を走ると、やっぱりこれは、誰がどう乗ってもスーパーカブ。万能交通手段は60年の時を超えるのだ。
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