うだるような暑さに見舞われるこのところの日本列島。そんなときになぜ暖房の話なんだという怨嗟の声が聞こえてきそうである。高熱を帯びると非可逆的に劣化してしまうリチウムイオンバッテリーセルについては前回のエントリで説明したとおりだが、逆に極低温下では「ぜんぜん反応しない」という不具合にも見舞われる。つまりまったく走れないわけで、解決のためにはバッテリーパック全体で昇温しなければならない。
エンジンを積んでいるなら熱源には事欠かないがBEVは熱を作り出す必要があり、そこで用いられるのがヒートポンプというシステムである。原理としては、現在の市販車だったら100%備わる(であろう)エアコンのクーラー部の反対側といえばいいだろうか。
熱媒体を凝縮器で高圧にすると温度は上がり(上図中の赤線)、膨張弁で急激に低圧化すると温度が下がる(青線)。冷房の場合はコンプレッサで圧縮した冷媒(赤線)は室外側の熱交換器:コンデンサで温度を下げ(黄線)、膨張弁=エキスパンションバルブで急激に低圧化した冷媒は気化霧化(赤線から黄線までは液体)し、室内側の熱交換器:エバポレータで室内から吸熱しながら(水色線)、再びコンプレッサで圧縮される。暖房サイクルはまったくその逆の仕組みである。
非常に寒い時期にBEVを動かしたい。しかし駆動用モータを動かすだけの充分な化学反応を得られない。そういうときにヒートポンプサイクル(暖房サイクル)を動かして、極寒の雰囲気温度から熱を得て(!)バッテリーパックを温める——ということをやりたいが、さすがにマイナス30度というような極寒条件では、現在の冷媒システムでは難しい。そこでPTCヒータ、いわゆる電熱線を用いて加温するが、これは電費がよろしくないため、スターターとして使うというケースが多いようだ。
ヒートポンプサイクルにおいて、ひとつユニークな試みだと感じたのがシェフラーの例。現在主流の冷媒・R1234yfやR134aは先述の通り極寒エリアにおいて熱回収の効率が乏しくなってしまうが、シェフラーは冷媒をCO2系のR744に代えることで低温側での効率改善を図る。
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