ある日いきなり、仲良しだったママ友の有紀ちゃんが消えた。「子供を置いていなくなった」「男と逃げたんだって」と瞬く間に広まるうわさ。幸せの只中にいたはずの彼女に、いったい何があったのか――。
『消えたママ友』(野原広子 著、KADOKAWA)は、ほのぼのした絵柄と裏腹に「ママ友」をとりまく複雑な人間関係をシビアに描きだしたコミックエッセイ。2018年から主婦向けの生活実用情報誌『レタスクラブ』で連載され、2021年には優れた漫画作品に贈られる手塚治虫文化賞短編賞を受賞した話題作だ。
「『レタスクラブ』は子供を持つ女性読者が多いので、共感しながら読み進めてもらえる“ママ友”を連載のテーマに据えました。野原さんは、わざわざ口にしないけれど心の奥底でくすぶっている感情をすくい上げるのがすごく上手で、にこにこ笑いながら内心では『夫が大っ嫌い』と思っている主婦とかをあくまでサラッと描く。そこがすごく面白いんです」(担当編集者の松田紀子さん)
ママ友が消えた「本当の理由」は…
主人公の春香は30歳、夫と息子の3人暮らしで、食堂でパート勤務をしている。一方、有紀ちゃんはきれいで明るく、商社の正社員としてバリバリ働き、かわいい息子とすてきな夫、家事育児をサポートしてくれる義母がいる。春香にしてみれば、有紀ちゃんの人生がまぶしく見えて仕方がなかった。
はたから見たら完璧な暮らしのどこに不満があったのか。有紀ちゃんと親しかった他のママ友に尋ねても、みんな心当たりはさっぱりない。それだけに「仲良かったのに、なにも知らないんだ」という周囲の人たちの言葉に心が痛む。
「有紀ちゃんが消えたことで、残されたママ友たちの均衡が微妙に崩れ、それぞれが抱える問題も浮き彫りになっていきます。それでも春香たちは有紀ちゃん失踪の謎を追い続け、最後に“真相”にたどりつきます。ママ友同士の人間関係にはつらいこともあるけれど、孤独な育児を支え合う救いでもある。そんなシスターフッドの物語として読んでいただけたら嬉しいです」(同前)
有紀ちゃんが消えた理由が分かって大団円かと思いきや、その先にさらに意外な展開が待っている。
「野原さんがあとがきに『妻は、現実から逃げ出したいという、うっすらとした欲求がある』と書かれていましたが、そんな気持ちが可視化される結末だと思います。見て見ぬふりをしていた本音を暴かれるという意味で、かさぶたをはがすときのような痛みと心地よさがある読後感。あまりにもダメージをくらって、二度と読めないという方もいるほどです。それが『消えたママ友』、ひいては野原さんが描く漫画の魅力かもしれません」(同前)
2020年6月発売。初版8000部、現在7刷6万部(電子含む)
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