メール、企画書、プレゼン資料、そしてオウンドメディアにSNS運用まで。この10年ほどの間、ビジネスパーソンにとっての「書く」機会は格段に増えています。書くことが苦手な人にとっては受難の時代ですが、その救世主となるような“教科書”が昨年発売され、大きな話題を集めました。シリーズ世界累計900万部の超ベストセラー『嫌われる勇気』の共著者であり、日本トッププロのライターである古賀史健氏が3年の年月をかけて書き上げた、『取材・執筆・推敲──書く人の教科書』(ダイヤモンド社)です。
本稿では、その全10章99項目の中から、「うまく文章や原稿が書けない」「なかなか伝わらない」「書いても読まれない」人が第一に学ぶべきポイントを、抜粋・再構成して紹介していきます。今回は、取材編。取材の現場で絶対に忘れてはいけない、取材者にとって「一番大切なこと」とは何か。
「使える/使えない」という傲慢さ
取材とは、あなたの立てたプランを答え合わせする場ではありません。企画書をなぞり、質問表を読み上げる場でもありません。
取材を「原稿の素材集め」と考えるライターは、自分でも気づかないうちに傲慢になってしまいます。相手の話に耳を傾けながら、ずっと「この話は使える」「この話は使えない」の評価・判断を下し、使えない話については文字どおりの馬耳東風になってしまう。それが結果として、面接にも似た息苦しさを相手に覚えさせてしまうのです。
自分が面接を受けたときのことを思い出してください。
あなたはなぜ、面接の場で緊張してしまうのでしょうか?
どうして面接官の前に出ると、自由に振る舞えないのでしょうか?
答えは簡単です。自分の一挙手一投足が「評価」の対象になっているからです。不用意な発言をしてはいけない、正解を言わなきゃいけない、優秀な人材だと思われなきゃいけない、と考えるから、緊張してしまうのです。
取材も同じだと考えてください。もしもあなたが「評価する人」として現場に臨み、素材の「獲れ高」ばかりを気にしていたら、コミュニケーションはうまくいかないでしょう。
取材に臨むライターは、面接官ではないし、裁判官でもなければ取調室の警官でもありません。あえてたとえるなら、接見中の弁護人です。つまり、「世界中を敵に回してでも、わたしだけはあなたの味方につく」を前提としている人間です。そうでなければ、相手はこころを開いてくれません。面接試験の就活生と同じように、模範回答をくり返すだけです。
評価を下すのではなく、
敬意を持とう
わたしはこれを、「敬意」に関わる問題だと思っています。
評価を下す、という言いまわしからもわかるように、評価とはいつも、「上から下」に向かってなされるものです。不採用や不合格の評価にかぎらず、優秀だとか、有能だとか、業界の風雲児だとかいうポジティブな評価もじつは、すべて「上から下」への矢印が働いています。
メディアから「天才」と呼ばれることを嫌うアーティストやアスリートが多いのは、そのためです。彼らは謙遜しているのではありません。なにも知ろうとしないまま、なにひとつ考えようとしないまま、彼らの歩んできた努力のプロセスを無視するように「天才」のひと言で上から評価(結論づけ)する非礼を、拒絶しているのです。
取材中、原稿の「獲れ高」ばかりを考えているあなたは、取材者としていちばん大切な敬意を失っています。相手の話をまともに聴こうとせず、すべての発言を「使えるか/使えないか」の目で評価し、相手をモノのように見ている。このうえなく傲慢で、自分勝手な人間に成り下がっています。たとえそれで原稿が書けたとしても、できあがるのは「模範回答をまとめたコンテンツ」でしかありません。そこに「その人」がいる必然のない、きわめて匿名的なコンテンツです。さらに言うなら、そんな取材を続けていても、相手との――ほんとうの――信頼関係を築くことはむずかしいでしょう。相手もあなたのことを「使えるか/使えないか」の目でしか判断しないからです。
評価とは、自分の都合に従って導き出された、安直な結論です。他者を評価するときあなたは、その人の価値、能力、職業観、人生観、可能性を決めつけてしまっています。
相手を評価しないこと。
それは相手のことをどこまでも考え続け、もっと深く知ろうと耳を傾ける、「聴くこと」や「読むこと」の大前提なのです。
(続く)
からの記事と詳細 ( 取材は「素材集め」にあらず。獲れ高マインドから脱却せよ - ダイヤモンド・オンライン )
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