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Thursday, May 5, 2022

「人が人につけたレッテルは何の価値もない」 人権新時代連載へ共感、意見370件 - 西日本新聞

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【記者28歳「私は部落から逃げてきた」~読者の声~】

 西日本新聞の若手記者が被差別部落出身というルーツを明かし、自らと部落問題を見つめ直した連載「記者28歳『私は部落から逃げてきた』」には、1日までに370件を超える声が寄せられました。問題の深刻さを再認識したという意見や、伝えなければ差別はなくなるとみる「寝た子を起こすな」の視点、在日コリアンなどのマイノリティー(少数派)からの共感などさまざまな内容でした。

 連載は4月19日から8回にわたり掲載。本紙「あなたの特命取材班」と無料通信アプリLINE(ライン)でつながる「通信員(フォロワー)」や読者を対象に感想を募りました。書くのに要された時間は平均22分。記事に込めた思いが多くの方々に伝わったのではないかと受け止めています。ご協力いただいた方に感謝を申し上げます。 (中原興平、森亮輔、山口新太郎)

 最も目立ったのは、当事者として声を上げた西田昌矢記者への共感だった。

 「胸に響きます。この問題に特に関心があったわけではありませんが、ウワッ!って感触がありました」と率直な感想を寄せてくれたのは福岡市の主婦(50)。福岡県福津市の大学教員の男性(55)は「当事者の視点から述べられた迫真のもので刮目(かつもく)に値します」。北九州市の会社員の女性(49)は「切り抜いて家庭でも共有しました」という。

 記者が抱いてきた葛藤に思いを寄せる読者も。福岡市の主婦(42)は「自身のことを明かすという決断をしたものの、現実に向き合う苦悩とこの先の不安も感じていらっしゃるのではないかと思いながら拝読しています」とつづった。

 当事者意識を持って捉えた人も少なくない。福岡市の教員の女性(53)は「自分も課題解決に向けて何かしなければ!という気持ちにさせてもらった」。福岡県久留米市の65歳は「生の声は重い。だからこそ記事を読んだ責任を感じています。少なくとも自分はひとの痛みに共感できる人間でありたい」と受け止めた。

   ◇    ◇

 地域によって被差別部落の数や規模は違い、知識や関心にも偏りがある。2002年に同和対策事業の特別措置法が失効して以降は「部落問題は終わった」との見方も一部に根強いのが現状だ。連載を通し、問題の重さを改めて認識したという声も多かった。

 長崎県新上五島町の公務員の男性(52)は「昔の話、社会科の授業の一つと思っていた」。福岡県の会社員の女性(40)は「現実問題として本当にあるのだと衝撃を受けています。今までは差別を受けたからといろいろな要求をする迷惑な人たちだとしか思っていませんでした」と自省した。

 特措法の失効後は「学校では被差別部落との関わりが少なくなりました」と嘆くのは福岡市の教員の女性(58)。「若い教職員にどう伝えるべきかいつももどかしく思っています。この記事は職員全員に見てもらいたいです」という。

 やはり「過去の問題」と感じていたという同市の自営業の女性(49)は「(記者が)私より20以上も若い人と知った時、部落問題がセピア色の昭和のフィルムから色を帯びて飛び出し、時間の経過だけでは根絶し得ない根深いものだと思い知りました」と記した。

 記者の同世代からも感想が届いた。部落問題に実感がなく、正面から考えたことがなかったと明かす熊本市の会社員の女性(25)は「目を覚まさせられたような気がしました。記者さんというお立場ではありますが、一人の同年代の声のように感じ、毎回気づけば涙していた気がします」。

   ◇    ◇

 問題を教えなければ差別は消滅していくと考える「寝た子を起こすな」という声は根強い。当事者として部落問題の現実を訴えた連載の趣旨を理解しながらも「問題を伝えるべきなのか」と悩む読者もいた。

 福岡市のパートの女性(53)は「知ってしまったら、どこが被差別部落なのか詮索し、差別も出てくる」。同市の会社員の男性(65)は「部落問題を取り上げなくなることこそ差別をなくす唯一の方法」とみる。

 問題を学校で教えること自体への疑問も。福岡県那珂川市のパートの女性(46)は「勉強することにより差別が生まれる気がしてならなかった」。福岡市の契約社員の女性(49)は「授業をすることで余計に差別を助長するのではないかと思ったが、いまだに正解は分からない」と自問しながら連載を読んだという。

 一方で「知ること」の重要性に思いを強くした読者もいた。玉石混交の情報が飛び交うインターネット時代。部落問題でも悪意に満ちた投稿は後を絶たず、誰もが「無知」なだけでいられるとは限らない。

 福岡県久留米市の主婦(41)は、子どもが成長するにつれ自身の「知らないことの罪」を感じるようになったと吐露。「知ろうと努力しなければ、子どもたちに間違った情報や認識を与えかねない」とした。同県大牟田市の会社員(33)は「寝た子を起こすな」にうなずく思いを抱きつつ、新型コロナウイルスに対する偏見や差別に思いをはせた。「正しい知識を知らないからこそ生まれる偏見や差別もある。知らないからこそ、根拠のないうわさ話やデマを信じ、自分を安心させたり、ますます不安になったりしてしまうと思う」

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 自身や周囲の差別意識を打ち明ける人たちもいた。

 福岡市の主婦(52)は「部落差別を巡って苦い経験があります」と告白した。高校生の頃、憎からず思っていた男子生徒から交際を申し込まれた。承諾しようとした時に「部落出身者だ」と言われ「瞬く間に気持ちが冷めた」という。「自分でも全く意図しない心の動きでした。あの時、彼は私の反応をどんなふうに受け止めたのだろうか」

 父が「差別主義者」だったとするのは福岡市の65歳。被差別部落出身者に対する差別的な言葉を使う父に反発し「私はそういう人にならない」と考えてきたが、連載を読んで「それではいじめの傍観者と同じ」と痛感した。「私は差別しないよ」だけでは「記者さんのしんどさもお母さんの苦しさも1グラムも変化しないことを突きつけられました」。

 ごく一部に限り、はっきりと差別意識がうかがえる文章もあった。福岡県宗像市の男性(57)は「わが子の結婚相手が出身ならば、身構えると思う」、広島市の会社員の女性(58)も「一緒に仕事するまでが精いっぱい」と述べた。

   ◇    ◇

 被差別部落にルーツがあるという人々からも声が寄せられた。

 「今でも部落出身ということを人に伝えることは勇気がいる」。福岡県の50代の会社員は、相手の母親に結婚を反対されたという。「人間って差別は悪いことだと学習していても、いざ自分の家族のことになるとエゴが出るものだ」としながら、記者に「部落出身の者として期待しとるけん」とエールを送った。

 香川県の50代女性は就職差別を受け「怖くて何年か住所を書くことができませんでした」と打ち明けた。死を選ぼうと思ったこともあったが「父が故郷を誰よりも愛していたことが命を救ってくれた」という。

 福岡県の40代女性は結婚相手の親に出自を気にされ「泣きながら自分の生い立ちを調べました」。「祖父母も父もとても勤勉で優しくて人格的に素晴らしいのに、なぜ差別されないといけないのか悔しくて悔しくてたまりませんでした」

 文章は重い問いかけで締めくくられていた。今、出身地を明かさずに暮らしているのは「もう傷つきたくないから」。「今後、被差別部落と言われる地区には住みたくないと思います。こう思うのは差別になるのでしょうか」

   ◇    ◇

 連載は本紙の年次企画「人権新時代」の第3部と位置づけた。日本の人権運動の原点とされる「全国水平社」を被差別部落出身者たちが創立してから今年で100年。企画の狙いは部落問題だけでなく、LGBTQなど性的少数者や、在日コリアンを巡る差別といったさまざまな人権問題と改めて向き合うことだ。

 福岡県内のパートの60代女性は「在日韓国人3世という立場で生を受け、それを隠しながら生きづらい人生を生きてきた私にはとても身につまされる記事でした」。中学の社会の授業で「朝鮮」や「韓国」という言葉を聞いただけで冷や汗をかいたことを鮮明に思い出したという。

 「逃げずに向き合いたい気持ちや決意が伝わり、勇気を出されたなあと思いました」と書いたのは長崎県の60代。「私も在日2世を隠していたこともあり、わかるところがありました」

 記者は連載で、幼い頃に友人の祖母から「部落の子なのに賢いね」と言われたと書いた。北九州市の主婦(62)は「『女なのに社長なんてすごいね』というのと同じ」と指摘する。「出身、性別、学歴などに関係なく一人の人間としてありのままに認められる社会になってほしいと思います」

 私たちのように生きづらさを抱えている「当事者」はすぐそばにいる-。記者は最終回でそうつづった。

 福岡県の40代男性は「現在、偏見じみた仕打ちを受けていて、とてもつらい立場です。記事がつい目に留まって読ませていただきました」。長崎県の女性はこう書いた。「私は過去に少しいじめられたことがありますが、その経験はずっと残ります。だからこそ相手の立場や気持ちを考えることができるかどうかを忘れないようにしたいなと思いながら、今を生きています」

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