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Saturday, June 4, 2022

まさかの野球禁止に「何言ってんだろ」海遊びや綱引きに思わぬ効果が - 朝日新聞デジタル

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(4日、春季高校野球北信越大会1回戦 啓新11―1高岡商)

 低く、強く。

 それが、強打が自慢の啓新(福井)の選手たちの共通のテーマだ。

 打席に立てば、あれこれ考えない。この二つだけを意識し、振り抜くだけという。

 三回。先頭の1番藤村洸大朗、2番高橋樹生(いつき)が続けてライナーで中前へ。無死一、三塁からスクイズで先制すると、一気に畳みかけた。

 9番の投手・松宮碧久(あおひさ)にも2点適時打が飛び出し、この回、打者11人の攻撃で計6点を奪った。

 四回以降も大振りにならず、4大会連続(中止になった2020年を除く)で夏の甲子園に出場している高岡商(富山)に11―1で6回コールド勝ち。

 放った15安打すべてが単打で、5打数5安打の藤村の声が弾む。

 「自分たちの理想の野球ができました」

 とは言うものの、快勝に誰よりも驚いたのは選手自身だろう。

 2安打1打点の4番田中太朗が打ち明ける。

「2週間前までチーム状態は最悪だったんです」

 5月上旬に春季県大会で5年ぶりの優勝を飾ったが、そこから落ち込む。

 5月中旬には小松大谷(石川)との練習試合で、20点近い差をつけられて大敗したという。

 選手たちが部室でうなだれていると、植松照智監督(43)に告げられた。

 「明日から1週間、練習をやめようと思う。バットもボールも握らず、リフレッシュするぞ」と。

 ぽかんとした顔を浮かべる選手たち。田中もその一人で、「夏前の大事な時期になにを言ってんだろ? この人、と思いましたよ」。

 本当にバットもボールも握らなかった。

 みんなでバスに乗って日本海に行き、練習着のまま海で遊んだ。

 学校の体育館に集まって綱引きをした。

 野球部は全寮制。放課後は、部屋でトランプをしたり、漫画を読みふけったりした。

 「このままで大丈夫か」。そんな不安を抱きつつも、いつもとは違う時間が過ぎていった。

 1週間後。久しぶりの練習に臨むと、変化が感じ取れたという。

 「野球に飢えていたからみんなの目がギラギラしていた。それと、一体感が生まれていたんです」

 田中はそう振り返る。

 私生活をともに過ごす時間が増えたことで、自然と選手同士の会話も多くなっていたという。

 そして、「夏に向けて力を試す大会」と位置づける北信越大会を迎え、その初戦を力強く突破した。

 啓新は、福井精華女子学園を母体として創設された女子高で、1998年に共学化された。19年の第91回選抜大会で初めて甲子園の土を踏んだ。

 夏の全国選手権は、19年は福井大会準々決勝で敗れ、21年は準決勝で涙をのんだ。

 着実に力をつけ、悲願まであと数歩のところに来ている。

 田中は言った。「僕らの代で初めて夏の甲子園に行ってみせる」。そして、力強く続けた。

 「もう休んではいられません。突っ走ります」

 海で遊ぶのは引退後までお預けだ。(山口裕起)

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