(4日、春季高校野球北信越大会1回戦 啓新11―1高岡商)
低く、強く。
それが、強打が自慢の啓新(福井)の選手たちの共通のテーマだ。
打席に立てば、あれこれ考えない。この二つだけを意識し、振り抜くだけという。
三回。先頭の1番藤村洸大朗、2番高橋樹生(いつき)が続けてライナーで中前へ。無死一、三塁からスクイズで先制すると、一気に畳みかけた。
9番の投手・松宮碧久(あおひさ)にも2点適時打が飛び出し、この回、打者11人の攻撃で計6点を奪った。
四回以降も大振りにならず、4大会連続(中止になった2020年を除く)で夏の甲子園に出場している高岡商(富山)に11―1で6回コールド勝ち。
放った15安打すべてが単打で、5打数5安打の藤村の声が弾む。
「自分たちの理想の野球ができました」
とは言うものの、快勝に誰よりも驚いたのは選手自身だろう。
2安打1打点の4番田中太朗が打ち明ける。
「2週間前までチーム状態は最悪だったんです」
5月上旬に春季県大会で5年ぶりの優勝を飾ったが、そこから落ち込む。
5月中旬には小松大谷(石川)との練習試合で、20点近い差をつけられて大敗したという。
選手たちが部室でうなだれていると、植松照智監督(43)に告げられた。
「明日から1週間、練習をやめようと思う。バットもボールも握らず、リフレッシュするぞ」と。
ぽかんとした顔を浮かべる選手たち。田中もその一人で、「夏前の大事な時期になにを言ってんだろ? この人、と思いましたよ」。
本当にバットもボールも握らなかった。
みんなでバスに乗って日本海に行き、練習着のまま海で遊んだ。
学校の体育館に集まって綱引きをした。
野球部は全寮制。放課後は、部屋でトランプをしたり、漫画を読みふけったりした。
「このままで大丈夫か」。そんな不安を抱きつつも、いつもとは違う時間が過ぎていった。
1週間後。久しぶりの練習に臨むと、変化が感じ取れたという。
「野球に飢えていたからみんなの目がギラギラしていた。それと、一体感が生まれていたんです」
田中はそう振り返る。
私生活をともに過ごす時間が増えたことで、自然と選手同士の会話も多くなっていたという。
そして、「夏に向けて力を試す大会」と位置づける北信越大会を迎え、その初戦を力強く突破した。
啓新は、福井精華女子学園を母体として創設された女子高で、1998年に共学化された。19年の第91回選抜大会で初めて甲子園の土を踏んだ。
夏の全国選手権は、19年は福井大会準々決勝で敗れ、21年は準決勝で涙をのんだ。
着実に力をつけ、悲願まであと数歩のところに来ている。
田中は言った。「僕らの代で初めて夏の甲子園に行ってみせる」。そして、力強く続けた。
「もう休んではいられません。突っ走ります」
海で遊ぶのは引退後までお預けだ。(山口裕起)
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