■主人公は小川哲。「僕=小川哲」の一人称による小説家の物語
収録された6篇の短篇は、すべて「僕=小川哲」が主人公。「プロローグ」では、大学院生の僕が、出版社を受けようと就活を始めます。恋人の美梨と会話を重ねていくにつれ、「自分は一体なにをやりたいのだろう」「そもそもなぜ自分は本が好きなんだろう」と自問するようになり、やがて僕は自分自身を主人公にした小説を書きはじめる――。これはもしや小川さん自身の実話が下敷きになっているのではないか、と思わせる物語ですが、ではなぜこのような主人公を設定したのでしょうか。小川さんは次のように語ります。
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僕は小説を書くとき、どんな主人公やテーマであっても、常に「小説を書くということはどういうことなのか」を考えながら書いています。今作は「小説家を主人公に据えて、小説とは何か」を書くことにしたので、それならばいっそ、自分に似たような小説家ではなくて、小川哲を主人公に据えればいいと思ったのです。
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■「承認欲求」とは何なのかを知りたかった
「僕」はやがて兼業小説家になり、仕事をする傍ら、さまざまな人に出会います。オーラが見えるという青山の占い師、これ見よがしにロレックスのデイトナを巻く漫画家、80億円を運用し、羽振りの良い生活をインスタにアップする高校の同窓生……。彼らはみな、自分が何かの能力に秀でていることを証明するために、明らかに無理をしています。滑稽でもあります。しかしそんな彼らに接触する「僕」は、あくまでニュートラルにその声に耳を傾けようとしているように描かれています。
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「人に認められたい」、「何者かになりたい」、という欲求は、誰しも自然に持ち合わせているものだと思います。でもその手段として、SNSやネットで誇示することが容易になったぶん、「何者かになった」ように見せることが簡単になり、本当の意味で「何者かになる」ことは難しくなったのかもしれません。小説家にとっては面白い時代だと思います。でも僕自身は、他人の評価よりも、僕という人間が僕を評価できるか、が大切なので、「承認欲求」というものが、じつはよくわからない。わからないからこそ興味を惹かれ、小説で描くことで、他人が持っている感覚を知りたいと思うのです。
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■内容紹介
認められたくて必死だったあいつを、お前は笑えるの?
才能に焦がれる作家が、自身を主人公に描くのは、「承認欲求のなれの果て」
著者自身を彷彿とさせる「僕」が、承認欲求に囚われた人々と遭遇する連作短編集。青山の占い師(「小説家の鑑」)、80億円を動かす金融トレーダー(「君が手にするはずだった黄金について」)、ロレックスのデイトナを巻く漫画家(「偽物」)。彼らはどこまで嘘をついているのか? いや、嘘を物語にする「僕」は、彼らと一体何が違うというのか? いま最も注目を集める直木賞作家が、成功と承認を渇望する人々の虚と実を描く。
■著者紹介
1986年、千葉県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程退学。2015年、「ユートロニカのこちら側」で第3回ハヤカワSFコンテスト大賞を受賞しデビュー。『ゲームの王国』で第31回山本周五郎賞、第38回日本SF大賞を受賞。2023年、『地図と拳』で第168回直木三十五賞を受賞。『君のクイズ』で第76回日本推理作家協会賞長編および連作短編集部門を受賞。
■書籍概要
【タイトル】君が手にするはずだった黄金について
【著者名】小川哲
【判型】四六判(256ページ)
【定価】1,760円(税込)
【ISBN】978-4-10-355311-3
【発売日】2023年10月18日
【URL】https://www.shinchosha.co.jp/special/ogon/
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