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Thursday, October 19, 2023

固定観念にとらわれず、自分の好きな道をただ一生懸命に ~2023 ... - JAXA 宇宙科学研究所

apaituberita.blogspot.com
富永愛侑氏

JAXA宇宙科学研究所海老沢研究室に在籍する富永愛侑(とみなが まゆ)さん(東京大学大学院理学系研究科天文学専攻)が、2023年度 第18回「ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞」を受賞しました!この賞は、物質科学と生命科学の2分野において日本をけん引する若手女性研究者に贈られる賞です。応募者の中から、研究の達成度や発想のユニークさ等を審査され、富永さんは物質科学分野の受賞者に見事選ばれました。
理系という道を選択し、キャリアを着実に積み上げてきた富永さんに、今回の受賞についてだけでなく、これまでの進路選択についてもお話を伺いました。

受賞について

ありがとうございます!
まさかこんなに素晴らしい賞をいただけるとは思っていなかったので、率直にびっくりしました。私の研究を支えてくださった海老沢研教授、辻本匡弘准教授、LiteBIRD*1およびXRISM*2プロジェクトメンバーの皆様に感謝しています。

実は、本当に偶然、同じ物理科学分野の受賞者の方とドレスが同じで、とても驚きました(笑)。ほかの受賞者の方3名とは授賞式当日に初めてお会いしたのですが、控室ではかなり打ち解けて、双子だね、という話をしていました。同じ分野の受賞でしたので、お互いが隣り合う場面も多く、おかげさまで仲良くなることができました。

2023年8月29日授賞式の様子
写真左)2023年8月29日授賞式の様子。左から日本ロレアル株式会社 ヴァイスプレジデント兼リサーチ&イノベーションセンター所⻑アミット・ジャヤズウァル氏、富永さん、日本ロレアル株式会社 代表取締役社長 ジャン-ピエール・シャリトン氏(写真提供:日本ロレアル株式会社)
写真右)2023年8月29日授賞式の様子。中央が富永さん、他受賞者(写真提供:日本ロレアル株式会社)

受賞対象の研究内容「宇宙の始まりから元素の拡散過程を経て物質の最終段階に至るまでの観測手法の開発と研究」について

基本的にLiteBIRDプロジェクトとXRISMプロジェクトに係る開発とそれらを使った研究に貢献する、というものです。

二つあります。一つ目は、LiteBIRDに搭載される検出器における宇宙放射線*3の影響評価です。LiteBIRDは、精密な観測のためにおよそ5000個もの検出器を搭載します。この検出器は、熱を信号として捉える最先端の熱検出器なのですが、熱であれば何でも信号として捉えてしまうという問題があります。そこで天敵となるのが宇宙放射線です。宇宙放射線は、地上よりも大量に飛び交っており、衛星外側の壁にあたるとシャワーのように拡散して二次宇宙線が発生します。これらが衛星内部の検出器まで到達すると、そのエネルギーも信号として捉えられてしまい、本来捉えたい信号の中に間違った信号(ノイズ)が多く紛れ、プロジェクトの科学成果に影響を及ぼしてしまう可能性があるのです。このため、宇宙放射線のノイズがどの程度紛れてしまうかを様々なシミュレーション*4により調べ、結果的に、宇宙放射線の影響が今要求されている値の1/10程度で収まることが判明しました。

二つ目は、衛星が取得する大容量の観測データを過不足なく地上局に送る方法の検討です。LiteBIRDは、宇宙放射線のほかにも前景放射*5とよばれる星や惑星の光等のノイズを含めて、大量の観測データを取得します。このため、これらをいかに効率よく地上局へ送るかを考えなければなりません。そこで、LiteBIRDが観測すると考えられるデータを予測して模擬データを作り、それを活用して、衛星のシステム上でどうデータを圧縮したらよいかを検討しました。現在、その検討したアルゴリズムが開発試験用の機器に実装されつつあります。

衛星試験の様子と国際学会での様子
写真左)衛星試験の様子(中央が富永さん)、写真右)国際学会での様子(左が富永さん)

やはり搭載する検出器が5000個というのは相当多いです。例えば、XRISMではポインティング観測といって、一つの天体をある程度の時間集中して観測する手法を取りますが、LiteBIRDは、個々の天体ではなく宇宙全体を対象に微小な変化も精密に観測する必要があるため、データ量が非常に多いという点で技術的な課題があると思います。

XRISMプロジェクトにおいて、初期観測期間に観測する天体を選定するにあたり、私は共著で観測提案書を出し、そこでシミュレーションを担当しました。NASAのNICER*6や日本のMAXI*7といったX線観測装置を使ってブラックホールや中性子星*8の観測データを解析し、どういう観測をすればユニークなデータを得られるかについてシミュレーションを行いました。その結果、提案した2天体は初期観測天体に採用されることになりました。また衛星の地上試験にも参加していたため、そういったプロジェクトへの貢献も今回評価いただいたと思います。

解析するデータがどのようにして出てきたか、をも理解したい

もともと幼少期から星やキラキラしたものに興味がありました。大学時代は天文学専攻で屋上の望遠鏡を使って星を観測して解析をしていました。大学3年生のときに、チリのアルマ望遠鏡*9での研究体験(サマーステューデントプログラム*10)に参加し、それが私にとってとても大きな経験でした。そこでは、望遠鏡のメンテナンスや取得したデータの解析ソフトを開発し、適宜更新する等、解析するデータが研究者の手元に来るまでに欠かせないお仕事に従事する多くの方を目にし、データ取得にはそういったお仕事の重要さを改めて認識しました。そして装置を作る立場に立ち、どのようにデータを取得したか仕組みを理解した上で、データを解析し科学成果を出したいと思うようになりました。それが大学院受験のきっかけであり、装置や衛星も含め、開発したいと思ったきっかけでもありました。中身を知りたい、という気持ちが、一個一個シミュレーションの中身があっているかを手計算で確認する作業にも生きたと思っています。

どちらのプロジェクトも、シミュレーションをするにあたっていろいろなソフトウェアを使いこなさないといけないところが大変でした。自分でどんどん新しく開発していかないとシミュレーションできない部分もありましたし、シミュレーションツールに誤りがあった際には、ソースコード*11まで戻ってバグの箇所を見つけに行ったこともあります。ただ、「中身を理解する」というのは重要だと思いますし、出てきた結果が正しいのかを確認するという細かい作業を積み重ねてこそ、研究成果につながると思っています。また、シミュレーション結果から最終結果に到達するまでのプロセスが正しいかどうかを確認することが一番難しかったです。例えば、最初から5000個すべてシミュレーションをするのは難しいので、1個や10個でシミュレーションをするのですが、その両者の結果を10倍にスケーリングして比較することが本当にいい評価方法なのかというと分からない。そういうときは物理の基本に立ち戻って、こういう原理だからきっとこうですね、という道筋を別に考えておかないといけないことも大変でした。

今後は民間企業で装置の研究開発へ

まずは博士論文を書ききることです。そして、来年4月からは、民間企業の研究開発職になる予定です。LiteBIRD放射線対策の研究をしたおかげでさらに興味を持った、「装置の研究開発」をしっかり頑張りたいです。いつかは宇宙科学研究所の先生と一緒にお仕事できればと考えています。

理系選択は「女の子だから」という固定観念へのチャレンジ

私が通っていた学校は中高一貫校で、中学1年生から大学の志望校を書かされる変わった学校でした。中学3年生の頃に進路を考えた際、その当時物理がとても面白かったこと、そして幼少期から星が好きで星座かるたでよく遊んでいたことを思い出したんです。あと、夜、自転車に乗っているときに、自分がこんなに進んでいるのに夜空の月がずっと同じところにいるように見えることがとても不思議で、月や太陽を図鑑でよく調べていたことも思い出しました。それから、次第に、理学部に進みたいと思うようになりました。

両親ともに理系だったので、数学の成績が悪いと母にとても怒られました。はじめ、私は数学が苦手で、成績が振るわないことに怒った母は、中学2年生のときに家庭教師を雇ったんです。私は適当にやりがちな性格でしたが、試験中に一通り回答が終わってもすべて細かく見直すことの大切さ等をその家庭教師の方に教わり、結果的にケアレスミスが減って急激に成績が上がりました。さらに、中学3年生の頃には順風満帆な成績でしたが、担任の先生から「富永はこれで満足しとったらあかんぞ」と言われ、はっとしたことをよく覚えています。家庭教師の方と中3の担任の先生のおかげで、勉強した内容を突き詰めるようになり、結果的に物理が面白いと思うようになったことで、今の私があると思っています。

私は暗記科目が苦手で、特に地理が苦手でした。試験前は、理系科目の勉強はおざなりにして、地理の勉強ばかりしていました。
今になって思うのは、論文や報告書を書くにあたって、文系科目の勉強も意外と大事だということです。読書感想文も、あの時くらいしか長文を書く機会はなかったですし、理路整然と長文を書く練習をもっとしておけばよかったと思っています。国際会議でのレセプション等の場で、江戸時代の将軍について聞かれて返答に困ったことがあります。中学、高校の勉強は本当に大事だと思います。

やっぱり女子がとても少なかったですね。母校では、理系に進む場合、物理・化学・生物・地学から2科目を選ぶのですが、女の子は物理が苦手だから生物と化学を選びなさいと言われました。でも私は物理が好きでしたので物理を選択しましたが、物理選択の女子 は1学年に3~4名程度しかいませんでした。学校にもよると思いますが、女の子だからと決めつけられたことについてすごく疑問に感じたことをよく覚えています。それから絶対に男子に負けないと思って特に物理を頑張りました。

理学部出身であっても、社会のどの分野でも活躍できる!

両親が理系ということもあり、はじめから理系を選ぶことに抵抗はありませんでした。ただ、母に理学部へ行きたいと言った際には、就職先ないよと言われました。

工学部と理学部は2大理系学部だと思いますが、工学部は社会に生きている感じがするけれども理学部はそれがない、というイメージがありました。でも自分自身も興味のある方向に就職できましたし、それは実際には違うと思います。天体の研究は、シミュレーションや統計もとても大事です。先行研究を読んでまとめたり論文を書いたり、そういったどのような分野でも培われるような基本的な力が身につきます。

プロフェッショナルな天文学研究者になるのは狭き門です。しかし私達は、大学院で天文学を学ぶことで以下のような能力が身につき、将来、社会のどの分野でも役立つと考えています。

  • 大量のデータを処理し、物理学だけを頼りに、雑多な事実から本質を抽出すること
  • 大きくて困難な国際プロジェクトを、英語で、皆と協力して進めること
  • 科学的思考に基づき、問題を規定し、解決し、文書として記録すること
  • 将来展望を持って高い目標を設定し、その達成に必要なスキルや知識を段階的に習得していくこと
  • コミュニケーション能力、プレゼンテーション能力、論理的な文章の書き方など
引用:JAXA宇宙科学研究所 海老沢研究室

まさしくその通りだと思います。研究者って、引きこもって研究ばかりしているイメージがあると思うのですが、今の時代、研究するにあたって、研究資金を集めるためにも宣伝力がとても大事で、そこではコミュニケーション能力がないとやっていけないと感じています。また、中高生時代を思い返すと、大学を決めることは人生を決めるくらい大きな決断であるイメージがあり、天文学に進んだら一生天文学と思っていました。でも、所々で方向転換することもありですし、人生そこで決まらないということを念頭に置いておくことが大事だと今は思っています。

実際はなかなか難しいですよね。例えば、日本では、留年することはよく思われない風潮がありますね。私自身もストレートで進むことが一番良いという固定観念がありましたけど、実際には、海外へ行くと、年齢にとらわれずに大学院に戻ってくる人も多いです。私自身、26歳にもなってまだ学生なんて…という固定観念があり、博士課程に進むことにはじめ抵抗感がありました。これがやりたいからやっているんだ、と自信をもってやっていかなければならないと思っています。

趣味でも固定観念へチャレンジ

大学時代に邦楽サークルに入り、尺八をやっていました。大学からなので、始めてもう9年目です。大学時代は毎日2時間練習して、週1回師範のお稽古を受けて、最終的に免状も取得しました。弟子としての名前に、師範の尺八としての名前を1文字もらい、今もその先生とたまにお稽古を続けています。

そのとおりです。尺八は女性 の奏者人口がとても少ないです。お箏の先生からは、女の子は肺活量が少なくて音が小さいから、特に希望なければ、箏か三味線にしてと言われました。それもジェンダーバイアスですよね。私自身、楽器体験しに行ったときに、尺八だけ音が鳴らず、やってみたくなってしまったので、尺八を選び、たくさん練習しました。女の子は肺活量が少ないからと言われたことも、とても悔しかったんです。振り返ると、身を置いてきた環境がずっと似ているかもしれません。常に、なにくそと思ってやってきました。

はい。実はチリに行くことが決まったとき、標高5000メートルの地域へ行くので、病院で肺活量の検査をしました。すると、成人男性の200%あることがわかりました(笑)。でも結局、チリでは高山病になってしまったんです。私も自信をもって行ったのですけど、現地でフラフラしてきてしまい、最終的に鼻に管を入れて酸素ボンベを担いで過ごしていました。

演奏会に出るとき、古い曲だとお箏、三味線、尺八がそれぞれ1人ずつということがよくあります。初めて演奏会に出たときは、手も震えるし息も震え、本番で尺八は自分一人しかいないという緊張感と責任感を何回も味わいました。そこで、緊張せず、練習通りにやるにはどうしたらよいかをよく考えたことがあり、この経験は学会や国際会議等での発表で生きていると思います。

行きついた結論としては、うまくやろうとすると絶対に失敗するので、この曲いい曲でしょと喜んでもらえるように吹くと、うまくいくことが増えました。研究発表も同じで、あまり緊張しているとうまくいかないので、この研究面白いでしょと思いながら発表すると、相手に伝わりやすくなると実感しています。

理系を目指すみなさんへメッセージ

まず、女性だから理系や物理は無理でしょ、といった固定観念だけで諦めないでほしいです。諦めない分、より一生懸命頑張ってほしいと思います。それによってまた後輩が自信をもって、私でもきっと行けると思って理系に進む人が増えていくと私は信じています。リケジョって言葉がなくなるくらい、女性が理系に進むことが普通になるといいなと思います。

インタビュー後の富永さんを囲んで
インタビュー後の富永さんを囲んでインタビュアーの岡上(左)、磯辺(右)

受賞情報

受賞年月日 受賞者 所属大学院 指導教員 受賞内容
2023/08/30 富永 愛侑 東京大学大学院 理学系研究科 海老沢 研辻本 匡弘 2023年度 第18回ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞

用語解説

  • *1 LiteBIRD : 宇宙マイクロ波背景放射偏光観測衛星。熱いビッグバン以前の宇宙を記述する最有力仮説であるインフレーション宇宙仮説を、宇宙マイクロ波背景放射の精密偏光観測により検証する。宇宙創生に関する新たな知見を人類にもたらすと期待されており、2020年代後半の打上げを予定している。
    https://www.isas.jaxa.jp/missions/spacecraft/future/litebird.html
  • *2 XRISM : X線分光撮像衛星。2016年運用停止したASTRO-Hが目指していた「超高分解能X線分光による宇宙物理の課題の解明」を引き継ぎ、2023年9月7日に打ち上げられた。打ち上げ後の3か月間に機器の立ち上げや性能確認を行った後、6か月間の初期科学観測を行う。選ばれた初期観測天体リストは、現在ウェブに公開中。
    https://www.isas.jaxa.jp/missions/spacecraft/current/xrism.html
    https://xrism.isas.jaxa.jp/research/proposer/approved/pv/index.html
  • *3 宇宙放射線 : 宇宙空間を飛び交う高エネルギーの放射線で、宇宙線とも呼ばれる。1912年オーストリアの科学者ヘスが高度5キロメートルまで気球を飛ばし、宇宙から飛来する放射線を発見した。
  • *4 シミュレーション : 現実に実験が難しい物事について、システム上で再現し、その挙動を観察・分析する手法。
  • *5 前景放射 : 宇宙に存在するすべての天体からのミリ波放射のこと。138億年前からの宇宙マイクロ波背景放射と比べて新しい時代にできた天体からの放射のため、「前景放射」という。
  • *6 NICER : Neutron star Interior Composition Explorerの略称で、アメリカ航空宇宙局(NASA)が国際宇宙ステーションに搭載したX線望遠鏡。
  • *7 MAXI : 国際宇宙ステーションの「きぼう」船外実験プラットフォームに取り付けられた全天X線監視装置。搭載したX線CCDカメラにより世界で初めて全天マップの取得に成功した。
    https://humans-in-space.jaxa.jp/biz-lab/experiment/ef/maxi/
  • *8 中性子星 : 質量の大きな恒星が超新星爆発を起こした後に残る特殊な天体。原子を構成する素粒子(陽子、中性子、電子)のうちの一つである中性子がぎっしり詰まっているため、中性子星と名付けられた。きわめて重力が強いため、密度が非常に高く、角砂糖1個分で数億トンにもなる。
  • *9 アルマ望遠鏡 : 国立天文台が米欧と協力して南米チリ共和国北部、標高5000メートルのアタカマ砂漠に建設した電波干渉計。正式名称は、アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計。
  • *10 サマーステューデントプログラム : 国立天文台・総研大 天文科学コース サマーステューデントプログラム。
    https://guas-astronomy.jp/ss.html
  • *11 ソースコード : プログラミング言語を用いたソフトウェアやプログラムの設計図のこと。

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