洗練されていない時代のユニクロがアツい!
古着というカルチャーに出会って早35年。幸いにして興味のジャンルは日々拡張しているから、今でも新鮮な出会いに事欠かない。古着に関してのみ、私はモテ期がずっと続いていて、なぜだか向こうから擦り寄ってくる気がするのだ。こんなこと恋愛では皆無なのに(泣)。 3年前、インスタグラムで初めて「オールドのユニクロ」を発見した時の衝撃は今も忘れられない。80sなシルエットのカップルのイラストと「UNI-QLO」の文字が、バックに大きくプリントされたTシャツ。私は1997年からユニクロに定期的に通っているが、このインパクトがありすぎなTシャツを見た記憶はないから、きっとそれ以前のものだろう。正直、筆舌に尽くし難いほどダサい。当時でも着るのは罰ゲームに近かっただろう。でも回り回って、なんだかこのいなたさが妙にカッコよく思えたのも事実なのだ。 以来、定期的にヤフオク!やメルカリで「ユニクロ ヴィンテージ」「ユニクロ 90s」「ユニクロ 当時」といったワードで検索するのが習慣になった。タグの変遷は現時点では正確に解明できていないのだが、1990年代後半から2004年頃まで使われていた横長の“紺タグ”は、ユニクロのヴィンテージを探す上で一番見つかりやすいもので、GAPの紺タグに相当する。それ以前のタグは様々なものが存在していて、ユニクロが山口県、広島県を主拠点とする地方の(ジーンズ)カジュアルショップに過ぎなかった時代なので、アメカジテイストの質実剛健な服が見つかることが多い。下の写真は、ヤフオク!で手に入れた「MADE IN USA」のTシャツ。「FIRST」って謎の主張が笑えるけれど、ゴワっとした素材感はアメリカのTシャツのそれで、不思議な魅力がある。 筆者がヤフオク!でデッドストックで購入した「MADE IN USA」のユニクロのポケT。紙タグのフォントを含め、どこか懐かしく甘酸っぱい匂いがする。 現在フリマサイトで値がついているジャンルは、+Jの初期、2006年のデザイナーズ・インビテーション・プロジェクト(SCYEやTHEATRE PRODUCTSなどが参加していた)、UTの企業コラボ、キース・ヘリングなどのアートコラボなど。とくにUTの企業コラボのデッドストックは、ヤフオク!で10万円以上の値をつけているものもある(売れないとは思うけれど)。個人的な見解だが、佐藤可士和がアートディレクターとして関わるようになった2006年後半以降のユニクロは、一気に洗練の方向に舵を切り、ブランドイメージは飛躍的に向上した。でも、現在の古着市場で注目を集めているのは、2006年以前の野暮ったくて実直なユニクロ。さりげなく捻りの効いた服を求める一部の古着好きの間で、少しずつ盛り上がりつつあるのだ。 ユニクロのヴィンテージを掘る動きは、1980~90年代のアメリカの量販ブランド(GAPやエディ・バウアーなど)の高騰に連動している。以前はほぼ価値のなかった1980~90年代のGAPの紺タグは、デニムのプルオーバーパーカなどの人気商品は2万円程度で取引されることも珍しくなくなった。「じゃあ日本人としてはユニクロもありってことだよね?」ということで、大阪の古着屋を中心に少しの価値をつけて売る流れが出てきたのが数年前。その火付け役の大阪の古着屋「十四才」の塩見大地さんは、オールド・ユニクロを扱い始めたきっかけをこのように説明する。 「僕はファッション好きというよりは天邪鬼気質で、誰もあまり見向きもしないような古着を見つけるのが好きでした。それで、オールドGAPが古着屋の定番になっていることを考え、その下位互換的(笑)な感覚で古いユニクロを集め始めました。オールド・ユニクロの魅力は、今のユニクロみたいにシュッとしていないところ。サイズ感やシルエットが鈍臭くて、そこが当店で扱うほかのアイテムと調和するんです」 オールド・ユニクロのデザインについてはどう思っているのだろうか? 「デザインはシンプルなものが多く、どうしてもコレを!と選んで着る服ではありません。そこに敢えてオールド・ユニクロをもってくる捻りが、自己満足感を与えてくれるんです(笑)。また、当時のユニクロは安い服として認知されていたがゆえに、“ユニバレ”や“ユニ隠し”などの言葉が生まれるほど他人にバレるのが恥ずかしいという風潮がありました。その辺りの哀愁も知った上で着ると、より面白いかと思います」 それでは、同店で扱っているオールド・ユニクロを紹介していこう。 個人的な見解だが、ちょっと古いユニクロの一番の魅力は“浪漫”にあると思う。地方の小さなカジュアルチェーンが、当時世界を席巻していたGAPを超えるべく挑んだ挑戦の物語が、この時代のユニクロの服には詰まっているような気がしてならないのだ。 今年2月、ユニクロの親会社「ファーストリテイリング」は時価総額でZARAを擁する「インディテックス」を超え、名実ともに世界一のアパレル企業になった。私は今パリでこの原稿を書いているのだが、オペラのグローバル旗艦店も、サンジェルマン・デ・プレの瀟洒な店舗も、現地の人たちで賑わっていて、モードの地にもユニクロがしっかり根付いている印象を受ける。きっとそんな遠くない未来に、ユニクロの古着が欧米の古着市場で流通するようになるのだろう。100年後にスーパー・ヴィンテージになることはなくても、ライフウエアとして第2の“服生” をまっとうすることになるのではないだろうか。私は今年の夏、初期のお宝が眠っていると思われる広島、山口のリサイクルショップへの“ディグり旅”を計画している。 大阪発の異能すぎる古着屋「十四才」 次の提案を日本中が注目する異能の古着屋。日本のタレント物のTシャツやスカジャン、PIKO、BADBOY、ガルフィーなどの1990年代のヤンチャ系古着、Jリーググッズ、日本のプロ野球の野球帽、企業ユニフォームなど、これまでの古着屋の範疇外だったアイテムを扱っている。オーナーの塩見大地さんは、日本の埋もれていた古着に光をあてることに関しては、右に出る者はいない。 ■十四歳(jyuyonsai) 住所:大阪市中央区西心斎橋2-13-13 ショウザンビル1階 TEL:03-5817-8627 時間:13:00~20:00(月水金は14:30~) 定休日:不定休 ホームページ:jyuyonsai.thebase.in/ Instagram:@jyuyonsai 【連載「古いけど新しい古着」について】 古着といえば長らくデニムを中心としたアメリカのヴィンテージが主流だった。今では日本とアメリカのみならず世界中にコレクターの輪が広がり、貴重なリーバイスのスーパー・ヴィンテージは3ケタで取引されることも珍しくなくなった。それはそれで素晴らしい文化だけれど、古着の魅力はそれだけじゃないはずだ。90~2000sの欧米のデザイナーズ、イギリスやイタリアの80~90sのレギュラー古着、80sの日本のDCブランド、ヨーロッパのミリタリーなど様々なジャンルの“発掘と調査”が世界規模で始まっていて、古着の楽しみ方の裾野が飛躍的にひろがっているのだ。この連載では、あらゆるジャンルの古着に精通したファッションジャーナリストの増田海治郎が、今おもしろいと思う古着とそれにまつわる文化をジャンルレスで紹介していく。 文・増田海治郎
からの記事と詳細 ( なに!? ユニクロのオールドだと? 連載「古いけど新しい古着」Vol.5(GQ JAPAN) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース )
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