鉛筆の芯は、どのような構造でできているのかご存じだろうか。黒鉛と粘土でできていて、その比率によってHやBなどの硬度が変わってくる。
多くの人は子どものころから何の疑問も抱かずに鉛筆を使い続けていると思うが、その常識を覆すようなペンが登場する。その名は「metacil」(メタシル、全6色、1本990円)。サンスター文具が6月下旬に発売する予定だが、このペンの何がスゴいのか。
芯が黒鉛を含んだ特殊合金でできていて、黒鉛と合金の粒子が摩擦によって紙に付着する。それによって、文字を書くことができるわけだが、驚くのはまだ早い。芯まで金属なのに、市販の消しゴムで消すことができるのだ。
同社が「メタシルを4月下旬に発売しますよー」とアナウンスしたところ、SNS上で話題に。「なにこれ? いますぐ欲しい」「シャーペン以来の革命ではないか」といったコメントが相次ぎ、予約が殺到。急きょ増産することになったが、それでも生産が追いつかない状況に追い込まれ、発売日が2カ月ほど遅れてしまったのだ。
発売前のタイミングで「ヒット商品 当確」の雰囲気が漂うこのアイテムは、どのように開発したのだろうか。同社で開発を担当した大杉祐太さんに話を聞いた。
開発のきっかけ
――芯まで金属なのに、鉛筆のように書けて・消せる「メタシル」が発売されますが、なぜ開発しようと思ったのでしょうか?
大杉: 個人的に文房具が好きで、以前から「新しいモノを生み出したいなあ」と考えていました。ただ、文具コーナーを見ても、昔からあるようなモノばかりが並んでいる。これまでの常識を覆すようなモノを開発することはできないのか。そんなことを考えているうちに、鉛筆に着目しました。鉛筆といっても、多くの人が使っているモノではなくて、「メタルペン」をつくることはできないかと思ったんですよね。
メタルペンのペン先は金属でできていて、それが紙にこびり付くことで文字を書くことができる。この技術はかなり昔からあって、「レオナルド・ダ・ヴィンチも使っていた」と言われています。ただ、黒鉛を混ぜていないので、色が薄いんですよね。紙の種類によって変わってきますが、濃さは5Hほど。
このままだと使い勝手が悪いので、多くの人が利用することは難しい。であれば、金属だけでなく、鉛筆と同じように黒鉛を混ぜれば、濃く書けるのではないか。そうすると、多くの人が使うのではないかと考え、開発を進めました。
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黒鉛の量
――メタシルの開発はどのように進んだのでしょうか?
大杉: 上司に「つくってみたいです」と伝えて、試しにつくってみることに。しかし、そこから困難が待ち受けていました。黒鉛の量をどのくらいにすればいいのか、その落としどころが難しかったんですよね。
先ほどお話したように、従来のメタルペンだと、金属100%なので、ものすごく長い距離を書くことができますが(「半永久に書ける」とうたっているモノもある)、文字が薄い。逆に、黒鉛を増やせば増やすほど、文字の色は濃くなりますが、そのぶん書ける距離が短くなる。
最初の試作品を使ってみたところ、黒鉛の量が少なかったようで、文字の色が薄くて「これは使えないな」と思いました。次に、黒鉛の量を増やしたところ、文字の色は濃くなったものの、書ける距離が短かったので、「これも使えないな」と。
そんな感じで、「ちょっと薄いな」「もうちょっと濃くできないかな」「書ける距離が短いな」「もうちょっと長く書けないかな」といったやりとりを繰り返して、いまの形に落ち着きました。濃さは、2H相当で、削らずに16キロほど書くことができます。
開発担当のメンバーが、コピー用紙に線を何本も書きまして。「往復で〇〇センチ、それを〇〇本書けたので、16キロ」と言っていました。
――今回の濃さは2Hですが、黒鉛の量を調節することで、HやBにすることができるわけですね。で、商品は完成したわけですか?
大杉: いえいえ。黒鉛の量は決まったのですが、次に価格の問題がありました。従来のメタルペンは高くて、1万円前後のモノが多いんですよね。メタシルは中学生や高校生を中心に使ってもらいたいので、1本1000円以下にすることはできないかと考えていました。
他社製品を見ると、軸の部分に金属と木を合わせるなどしている。こうしたことをせずに、シンプルな構造にすればコストを抑えることができるのではないかと思いました。高級感を打ち出すことは大切なことですが、それをそのまま価格に反映させることはできません。このほかにも抑えるところはできるだけ抑えて、必要なところにはコストをかけて。こうした見直しをしたことで、1本990円で販売できるようになりました。
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試し書きは「永」で
――商品が完成して、手ごたえはありましたか?
大杉: 会社の同僚に使ってもらったところ、とてもいい反応でした。当社は文具メーカーですが、メタルペンを使ったことがない人が多くて。「ペン先が金属なのに書けるの?」「鉛筆の進化版として訴求できるのでは?」といった声がありました。
現在は発売前になりますが、想定以上の受注がありまして。当初予定していた在庫に対し、3倍以上の注文が入りました。社内で「大変だー」「大変だー」となって、その後、急ピッチで生産したのですが、それでも追いつかない状況が続いていました。予定よりも2カ月ほど遅れてしまいましたが、ようやく発売できそうです。
――ではでは、メタシルで書いてみますね。自分の名前「土肥義則」と……。うーん、紙によって、濃く書けたり、薄くなったりしますが、視認性は悪くないですね。あと、消しゴムで消せることはできますが、通常の鉛筆に比べてちょっと消しにくい感じ。これは改良の余地あり、といったところでしょうか。ちなみに、試し書きに自分の名前を書きましたが、どういった文字を書く人が多いのでしょうか。「あいうえお」とか?
大杉: 永久の「永」が多いですね。なぜ「永」が多いのかというと、「とめ」「はね」「はらい」といった基本的な技法が一文字に含まれているからなんですよね。
――ほほー、ちょっとした雑学ですね。では、最後の質問を。メタシルの形は「8角形」になっていますが、これに意味はあるのでしょうか?
大杉: パッと見て、鉛筆と思われるようにしたかったのですが、6角形だとちょっと“ひねり”がないかなあと。6角形よりも8角形のほうが角がとんがっていないので、持ちやすいかなあと思いまして。あと、「8」は「永久」の意味もありますので、ユーザーには長く使っていただきたいという願いも込めて、8角形にしました。
――あ、またまた「とめ」「はね」「はらい」の「永」の文字がでてきましたね。本日はありがとうございました。
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