◆恐竜がなにを食べていたかについて日本の研究グループが新たな証拠を発見
東京大学と早稲田大学、久慈琥珀博物館の研究グループが、「竜脚類を植物食(いわゆる“草食”恐竜)とする客観的証拠を見つけた」とする論文を国際的な古生物学の専門誌に発表しました。
この“竜脚類”というのは体長が10m以上あると見られる大型の恐竜で、岩手県久慈市にある9千万年前の中生代白亜紀の地層から発掘された化石を分析した成果です。
◆日本でも各地で恐竜化石が見つかっている
かつては、「日本では恐竜の化石は出ないのでは」などと言われることもありましたが、各地で発掘調査が進んだ結果、これまでに北海道から九州まで19道県で恐竜の化石が見つかっています。
岩手県久慈市はティラノサウルスの仲間の化石なども見つかっている白亜紀の化石の宝庫です。
◆どうやって恐竜がなにを食べていたかの証拠を見つけた?
研究グループは竜脚類の歯の化石の「摩耗痕」、つまりすり減り方を調べました。
私たちがものをかみ続けていると歯の方も少しずつすり減って、表面に「マイクロウェア」と呼ばれる肉眼ではよく見えないほど小さな傷ができます。
そこで、歯の化石に特殊な顕微鏡でレーザーを当ててこの傷を三次元的に詳しく分析したところ、なにをどう食べていたかの情報が得られました。
◆そんな小さな傷から、なにを食べていたかまでなぜわかった?
研究のポイントは、「現代の動物との比較」にありました。
現代の動物なら実際になにを食べているのかがわかるので、研究グループの1人が世界の様々なトカゲについて、主に食べている物と歯にできる傷の深さの関係を調べたところ、硬いエサをかんでいるトカゲほど歯の傷が深いと見られることがわかりました。
例えば、ここで「軟体動物」とあるのは貝のことで、貝を食べるトカゲが歯の傷が最も深く、これは硬い貝殻をかむためと考えられます。一方、肉は意外に柔らかい食べ物で、肉食のトカゲは歯の傷が浅く、植物を食べるトカゲは大体その中間でした。
◆これらのトカゲの分析結果と恐竜の歯の化石の傷を比較した
竜脚類恐竜の歯8本を分析したところ、食べ物の硬さ的に貝殻よりは柔らかく様々な植物と同程度と言える結果で、そこでこの恐竜は植物を食べていた、いわゆる草食恐竜だと判断されました。恐竜の食べ物の硬さ(物性)の客観的比較をした結果が得られたのは世界初だと言います。
◆こうした大きな恐竜は、以前から草食恐竜だとわかっていたのでは?
その通りです。竜脚類は元々植物食だと考えられていたので、今回の結果はそれ自体には驚きはありません。
ただ、実はこれまで恐竜が「肉食」とか「草食」とされてきたのには、 具体的な証拠はほとんどありませんでした。これらは主に化石の形状などから、例えば「この歯の形なら植物をすり潰して食べていたんだろう」とか「この骨格なら他の動物を襲っていただろう」という具合に推定されたものでした。
そしてもうひとつ、恐竜の食べ物を研究するのに使われてきたのが「コプロライト」というものです。
◆コプロライト=ふんの化石
こちらはカナダのロイヤルサスカチュワン博物館が収蔵するコプロライトで、ティラノサウルスのふんの化石とされるものです。ふんの化石の内部には、黒く点々と見えるものもあり、これは獲物となった別の恐竜の骨ではないかと見られていて、このようにコプロライトからなにを食べていたかわかるケースもあります。
ただ、多くの場合、「そのふんが誰の落とし物か?」特定するのは困難です。また、肉食恐竜なら獲物の骨がふんの中にも残りやすいですが、植物は分解しやすいので植物食と思われる恐竜の食べ物を特定するのはさらに難しいのです。
そういう意味でも今回の「歯の傷を3D分析する」新しい技術は注目されます。
◆もうひとつの分析成果
今回の研究では恐竜のそしゃく、つまり「かむ度合い」についても情報が得られました。
先程は「歯にできた傷の深さ」を調べましたが、今度は「傷の密度」=つまり面積あたりの「傷の多さ」を分析した結果です。
肉や卵を食べるトカゲは歯に残された傷が少なく、これは柔らかかったりあまりかまずに丸のみにするためではないかと考えられます。これに対し傷が多いのが植物食のトカゲで、これは繊維質で消化の悪い植物はよくかんで食べていることを表しているのではないかと考えられています。
そして今回の竜脚類恐竜では、歯の傷がどのトカゲよりも多かった、つまり「よくかんで食べていた」のではないか?という結果が得られました。
これまで竜脚類はくしの歯状に並んだ細長く多数の歯で木の葉などをこそげ取るようにしてあまりかまずに飲み込んでいたと考えられていましたが、それが単なる丸のみではなくよくかんでいたのでは、という知見が得られたのも今回の成果です。
これについて、化石の発掘にあたった早稲田大学・平山れん廉教授は「竜脚類はカロリーの低い植物で巨体を維持するため長い時間を食事に費やす必要があり、その結果、歯に多くの傷ができたのではないか」と見ています。
◆新たな分析法で色々なことがわかってきた
分析を行った東京大学の久保たい泰研究員は「恐竜の歯を立体解析する研究は(今までのところ)世界でわれわれしか進めていないので、今後ほかの恐竜も調べて恐竜全体がなにを食べていたか、明らかにしていきたい」と話していました。
今回の竜脚類は以前から植物食だと考えられていたので、それが裏付けられたこと自体は意外性はないのですが、この技術の精度の高さが確かめられたのが重要で、まだなにを食べていたかはっきりしていない恐竜も多いので、今後この新たな方法でそうした恐竜の謎が解明されていくのを期待したいと思います。
(土屋 敏之 解説委員)
からの記事と詳細 ( 世界初!恐竜の食べ物に最新研究で新たな証拠! - nhk.or.jp )
https://ift.tt/9pPoCOL
No comments:
Post a Comment