激動の2022年もあとわずかとなった。世界が大きく変化しつつあっても時間は確実に進んでいく。季節を表す言葉として知られる二十四節気をさらに3分割した七十二候では12月中旬は熊蟄穴(くまあなにこもる)と呼ばれる時期だ。文字通り冬眠のため熊が穴にこもることを意味している。冬眠前の熊は餌を探すために里に下りてきて、福島県でも熊の出没に対して晩秋、春先ともに被害に注意が必要だ。
爬[は]虫[ちゅう]類や両生類など、変温動物は寒い季節になると体温とともに脈拍、呼吸数なども低下する。これに対して、体温を一定に保つことができる、人間を含む哺乳類の中にも餌が少なく、活動に適さない冬には体温を下げ、ほとんど眠り続ける動物がいる。これが冬眠である。
熊は冬眠する動物の中では最大級だが、いくつかの特徴を持っている。冬眠中は餌をとったり排[はい]泄[せつ]したりしない。約半年間、基本的に活動しない。それでいて筋肉や骨の量はあまり減少することがなく、骨粗しょう症にもならない。このメカニズムを解明し、骨粗しょう症などの予防につなげようとする研究が行われている。
一方、冬眠する前には大食を繰り返し、脂肪分を体内にため込むが、こんな生活を数か月続けても熊は糖尿病にならない。この仕組みの解明も研究されており、人間の糖尿病の治療のヒントと考えられている。どちらにしてもわれわれ人間から見ればうらやましい限りの、持って生まれた能力である。熊は妊娠中も冬眠するが、この場合体温は高いままの状態が保たれる。胎児の成長に障害となることを避けるためとのことである。
人間が熊のように冬眠でき、安定的な省エネ状態を維持できれば、食事や呼吸による酸素の消費を抑えることができる。これにより長期間の宇宙旅行の際に積み込む物資を節約できるとともに、狭い宇宙船の中でのメンタル面の健康維持にも貢献するのではないかとその可能性が検討されている。宇宙航空研究開発機構(JAXA)、米航空宇宙局(NASA)や欧州宇宙機関(ESA)は火星などに向かう宇宙旅行における重要な技術として注目している。
今から6500万年前、恐竜が繋栄していた地球に巨大隕[いん]石[せき]が衝突し、舞い上がった砂煙などで環境が激変し大型の恐竜など多くの生物種が絶滅した。特に気温低下による影響は深刻だったが、爬虫類の一部と、冬眠できた哺乳類の一部が生き残ることができたとも言われている。この事実は生物多様性の維持がいかに重要なことかを示していると思う。実は人間と同じ霊長類の仲間にも冬眠する種類がいて、同じ遺伝子を人間も持っているのではと調べられている。人間が近い将来に安全な数か月の「冬眠」ができるようになれば、医療、宇宙分野の応用はもとより、生活そのものを変えるだろう。さらに「睡眠」の研究が進むと我々が人生の三分の一を過ごす睡眠時間の意義が変わっていくかもしれない。(中岩勝 産業技術総合研究所 名誉リサーチャー)
からの記事と詳細 ( くまあなにこもる(12月25日) - 福島民報 )
https://ift.tt/mjswSfu
No comments:
Post a Comment