NHKの報道現場で、重大な不祥事が続いている。本業の土台が揺らいでいないか疑わざるを得ない事態である。
先月、取材の企画案とインタビューの文字起こしが放送前に外部へ流出した。補助業務を担う派遣スタッフが閲覧権限を悪用し、興味本位で持ち出したという。しかも、流出先は取材に応じた人が対立している相手だった。
かつてTBSが、被害者の弁護士に取材した映像を放送前にオウム真理教側に見せ、社長が辞任した事件をほうふつとさせる。しかし、NHKが深刻さを自覚しているかどうかはおぼつかない。
記者会見で説明したのは危機管理担当の室長で、セキュリティーなどを理由に詳細も明かさない。派遣スタッフにどんな教育をしていたのか。動機はどんな「興味」だったのか。なぜこのスタッフが文字起こしの閲覧権限を持つ必要があったのか。こうした疑問は解消されていない。
しかも、当人が職員ではないため調査は限定的になるという。これほどの問題を起こして調査も十分にできない人物に、報道の根幹にある情報への接触を許していた責任をどう考えているのか。
取材資料の流出では、朝日新聞にも苦い経験がある。NHKだけでなく報道機関全体の信頼に関わる問題だ。つぶさに調査をして視聴者に改めて報告する必要がある。
5月放送の「ニュースウオッチ9」についても今月、放送倫理・番組向上機構(BPO)が審議結果を公表し、放送倫理違反があったと結論づけた。ワクチン接種後に家族が死亡した人たちを、コロナによる死者の遺族であるかのように報じた問題だ。
調査報告からは、取材制作の過程で軌道修正する機会はあったのに、上司と担当者らが十分に話し合わないまま放送になだれ込んだ様子がうかがえる。2年前に起きた虚偽字幕問題と共通する構図だ。
稲葉延雄NHK会長は「リスクに対して敏感に」ならねばならないと再三述べ、危機管理の重要性を強調する。実際、問題が起きるたび管理や監視を強める再発防止策が打ち出されてもきた。だが、そうした姿勢が、局内で萎縮と硬直化を招いてはいないか。
報道現場に必要なのは、時代への感度を高め、複眼的で柔軟な発想にもとづいて自由闊達(かったつ)な議論ができる環境だ。リスク管理は、そうした土壌があって初めて適切に機能するものだろう。
失態が続く背景に何があるのか。広い視野をもってNHK自身が徹底的に検証する必要がある。
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