好きな駅弁はなに? このように聞かれて、仙台駅で販売されている「牛たん弁当」や、広島駅で人気の「あなごめし」などを想像した人もいるだろうが、首都圏で最も売れているのは、崎陽軒(横浜市)の「シウマイ弁当」だ。
横浜名物シウマイの妹分として、弁当は1954年(昭和29)に登場。折箱の中にはシウマイ5つのほかに、マグロの照り焼、かまぼこ、鶏の唐揚げ、玉子焼き、タケノコ煮、あんず、切り昆布&千切りショウガ、ご飯が入っていて、価格は860円。弁当の中には物珍しいモノが入っているわけではないのに、1日に約2万7000個もつくっていて、日本で最も売れている駅弁と言われているのだ。
ちょっと話が変わるが、新横浜駅から新幹線に乗って、駅弁をモグモグする。お茶を飲んだり、ITmedia ビジネスオンラインの記事を読んだりして、2時間40分ほど乗っていると、どこの駅に到着するのかご存じだろうか。兵庫県の姫路駅である。その姫路駅で、関西版のシウマイ弁当を販売したところ、「オレもオレも」「ワタシもワタシも」といった感じで、駅弁を手にするために行列ができているのだ。
商品名は「関西シウマイ弁当」(960円)。容器やパッケージのデザインなどはシウマイ弁当と似ているが、製造しているのは姫路に拠点を置く「まねき食品」である。似ている部分が多いので、「いまの時代にパクったの?」「やっちゃったな」などと思われたかもしれないが、崎陽軒の許可をきちんと得て、2021年11月26日に販売した“公認弁当”のだ。
昨年の11月末といえば、新型コロナの感染者数が落ち着いていたものの、鉄道の利用はまだまだ。コロナ前のように人の移動が戻っていないので、「新しい駅弁をつくってもそれほど売れていないのでは?」と予想した人もいたかもしれないが、発売初日は30分で限定100個が売れた。整理券を配って対応するほど人が押し寄せたわけだが、本家の弁当とどのような違いがあるのだろうか。
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「関西シウマイ弁当」誕生のきっかけ
関西シウマイ弁当の中に入っているシウマイは、崎陽軒が担当している。昆布や鰹節といった関西のだし文化と融合させることで、西の“シウマイ”を完成させた。
シウマイ以外のおかずを見ると、筍煮は拍子木切り筍煮に、鶏の唐揚げは鶏のあご出汁唐揚げにして、鮪の漬け焼は鯖の幽庵(ゆうあん)焼に。玉子焼きは出し巻玉子にするなど、関西の人が思わず手に取りたくなるような工夫を施している。また容器には、本家と同じ「経木折(きょうぎおり)」を使うことによって、「シウマイ弁当の冷めてもおいしいことへのこだわりを継承しました」(まねき食品の担当者)という。
それにしても、なぜ関西シウマイ弁当は生まれたのだろうか。「崎陽軒のことはなんとなく知っているよ」といった人は多いかと思うが、まねき食品については「聞いたことがないなあ。どんな会社なの?」と感じられたかもしれない。
同社の歴史は古くて、創業は1889年(明治22)である。山陽鉄道の開通にあたって駅構内の販売許可を取得し、駅弁の販売を始めた。ちなみに、「幕の内弁当」をつくったのは同社で、当時の弁当には13種類のおかずが入っていて、二重の折詰。現在の価格に換算すると、1700円ほどになるので、「今日はハレの日なので、ちょっと“ごちそう”にするか」などと言って、買った人も多かったのかもしれない。
筆者が個人的に気になっているのは、まねき食品が手掛けている「えきそば」(390円〜)だ。終戦後、小麦粉の替わりにコンニャク粉と混ぜたそばを販売していたが、現在は、かんすい入りの中華めんに和風だしの味で提供している。JR姫路駅のホームなどで出店していて、サラリーマンや学生などが立って食べている姿を目にすることができる。駅弁に入っている「拍子木切り筍煮」は、このえきそばの出汁を使って味付けをしているので、ファンにとっては心を揺さぶられる一品になっているのだ。
また、ちょっと話がそれてしまった。老舗のまねき食品がなぜ関西シウマイ弁当を手掛けるのようになったか、である。結論を先に言うと、コロナの感染拡大によって売り上げが大きく落ち込んだことがきっかけである。鉄道の利用客が減少したことを受け、駅弁の販売数が急激に低迷したのだ。
まねき食品の岩本健司さん(営業部)によると、「コロナ前から、崎陽軒さんと一緒に何かできればいいなあと考えていました」という。しかし、崎陽軒はこれまで他の駅弁業者とコラボをしたことがない。ということもあって、「無理を承知のうえ、お願いしたところ、快く引き受けてくれました」(岩本さん)とのこと。
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「ご飯」の完成に苦労
しかし、である。新しい駅弁を完成させるために走り出したものの、ゴールのテープはなかなか見えなかったのである。食材は何を使えばいいのか、味付けはどうすればいいのか。「ああでもない、こうでもない」と考え、手を動かし続ける。試作品をつくって、崎陽軒の担当者に食べてもらったものの、ダメ出しが続く。特に「ご飯」については、最後の最後まで「OK」が出なかったのだ。
合格ラインは、米の味をしっかり感じられる状態にすること。そのためには、ご飯から出てくる水分を容器の経木が吸収して、冷めてもおいしく食べられるようにしなければいけない。まねき食品の工場でご飯をつくって、それを持って新幹線に飛び乗る。目的地は横浜である。崎陽軒の本社に足を運んで、ご飯を試食してもらうが、またダメ出し。1回や2回ではない。10回ほど試食してもらって、ようやく太鼓判が押されたのだ。構想から1年半の月日が経って、やっと駅弁が完成したのである。
試作を重ねて、崎陽軒からゴーサインが出たわけだが、姫路の工場ではなく、先方のキッチンを借りてつくることはできなかったのだろうか。交通費と時間の節約にもなるし。「それはダメです。レシピを見てつくるだけではなく、自社の設備でおいしいご飯をつくることができるのかどうか。同じモノを何度もつくって、同じ味を再現させなければいけないので、自社の工場でつくらなければいけません」(岩本さん)ときっぱり。
先ほど紹介したように、まねき食品は駅弁をつくっている会社である。しかも歴史があるので、これまで数え切れないほど「ご飯」を炊いてきたはず。素人の考えになるが、「であれば、弁当に入れるご飯をつくるのは、ちょちょいのちょいでしょ」と思ったが、それは大きな間違いだったようである。
シウマイ弁当を開けると、フタの裏にご飯粒がついている。「あ〜、もったいないなあ」と思って、お箸を使ってそれを食べる人もいると思うが、ご飯粒はついていなければいけないのだ。このことについて、ビジネス作家の中山マコトさんは次のように指摘している。
『崎陽軒のご飯は、通常の水で炊く方法ではなく、水蒸気を使って炊きあげる「蒸気炒飯方式」を採用しています。実はこれ、「おこわ」を炊くのと同じ炊き方なのです。炊きあがりのご飯が余分な水分を持たないように、水蒸気で炊き上げる。するとモチモチな食感が生まれ、弁当のフタにご飯粒がくっつく。これこそが、おいしいご飯の証拠なのです』(マネー現代 2020年2月29日)
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からの記事と詳細 ( 「関西シウマイ弁当」を手にするために行列! 担当者に開発秘話を聞いた - ITmedia )
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